「あつい…」
「しし!何へばってんの?」
ぐったりとソファーに横たわる私の横で歯をむき出しにして笑いながらベルがそう問う。
熱を孕んだ重苦しい空気。
首にべったりと張り付く髪が気持ち悪い。
「暑い」と呪詛のように掠れた声で何度も呟く私を、ベルは愉しげな表情で見やる。
汗一つ滴っていないその顔は、どうしてこんなにも涼しげなのだろう。
「ベルは…暑くないんですか?」
「うん。だってオレ王子だもん」
相変わらずのその答えに、私は重い息を吐き出して力のない目でベルを見た。
あまりの暑さに、目を開けていることすら億劫になってくる。
ぽす、とソファーに顔を埋めた私の頭を、ベルの大きな掌が覆った。
そっと顔を上げれば、頬に張り付いた髪を優しく撫でられる。
少しだけ体温の低いベルの手は、熱に浮かされた頬にとてもよく馴染んだ。
ふわり、と控えめな風が髪を撫でるように抜けていった。
「ん、」と単音を発して薄らと目を開けば目の前に団扇片手に「うしし」と笑うベルがいた。
ふわりと、風が頬を擽る。
三日月のように口元を歪めて、ベルはパタパタと団扇を扇いだ。
「涼しい?」
「ん、ベル…それは何処から?」
「そこの棚ん中」
言われて、そういえば去年そこに仕舞った気がすると納得する。
一体何時の間に見つけ出したのか疑問ではあるが、送られてくる風が心地よくてそんな些細な事は如何でもよくなってしまう。
「ベル、有難うございます」
「ししっ!王子にこんな事させてタダで済むの、お前くらいじゃね?」
「私は別に頼んでませんよ」
少しだけ意地悪をしたくて、そう言えば、ペチッと団扇で頭を叩かれた。
壊れたクーラーを恨めしく思ったりもしたが、今は、そうでもなかったりする。
我ながら現金な女だな、と苦笑を漏らして、送られてくる緩やかな風に身を任せた。
苦手な夏が、少しだけ好きになれた。
そんなある日。