「君はいつも眠そうだね」
応接室で、与えられた仕事を黙々と熟している時だった。
いつもなら不必要に話し掛けたり小さな音を立てただけで眉間に皺を寄せて機嫌が悪くなる彼が、何とも珍しいことに自ら“不必要に”話し掛けてきた。
「はあ…そう見えます?」
「見えるから言ってるんだよ」
あ、今のは「眠いです」って言うべきだったのかもしれない。
ム、と少しだけ機嫌の悪くなった委員長を見て、そう思った。
「ちゃんと寝てるの?」
「ええ、まあ…」
曖昧な返事をした矢先、再び欠伸が漏れた。
それを中途半端に噛み殺して、目尻に薄らと滲んだ涙を拭い取る。
説得力の欠片もないが、実際に睡眠時間は足りているのだ。
「委員長も、眠そうですよね。よく昼寝してますし」
「僕のことは今はどうだっていいんだよ」
「はあ…」
がたん、と音を立てて委員長が立ち上がった。
そしてつかつかとこちらへ歩み寄ったかと思うと、後頭部を鷲掴みにされそのまま横に倒された。
持っていた今月の遅刻者リストの紙が手から離れて宙を舞う。
起き上がろうにも、後頭部を掴まれている為身動きが出来ない。
さて、如何したものかと考えあぐねていると真上から降って来た声に目が点になった。
「休憩時間をあげる」
一体どういう風の吹きまわしだ。
休憩時間?
そんなもの今日初めて貰った。
ぐ、と後頭部を押さえる手に力が籠められる。
寝ろ。そういうことなのだろうか。
「ええと…大変有難いんですけど私今眠くな──」
「寝る、よね?」
「はい」
ぎらりと光ったその武器が握られた瞬間反射的に肯定の返事をする。
だってまだ死にたくない。
「30分だけだよ」
「十分ですお休みなさい」
委員長が何がしたいのかさっぱり解らないが、折角の厚意を無下にするなんて命を捨てるような事など出来るはずもない。
大人しくそのまま目を閉じると頭を掴んでいた手がぽんぽんと数回まるで犬や猫にするように撫でて離れていった。
気まぐれな上司を持つ部下は大変だ。
寝たフリを決め込むつもりがいつの間にか爆睡してしまったのがこの日犯した重大なミスだった。
──
色々不器用な雲雀