「痒い所はあるかぁ?」
「んーん」
「流すぞぉ、目ぇ瞑ってろ」
「はーい」
大人しく目を瞑ったのを確認して、スクアーロはシャワーノズルを引っ付かんで真っ白い泡を丁寧に洗い流していく。
艶やかな黒髪に指を通せば痛みがない故にするりと逃げられてしまう。
気持ち良さそうに目を瞑る顔についた泡を流してやり、スクアーロはシャワーを止めてふわふわのバスタオルを頭から掛けた。
「動くんじゃねえぞぉ」
「はぁい」
ポタリと髪から水滴が落ちる。
わしゃわしゃと少しだけ乱雑にそれらを拭き取り、湯冷めしないように身体をある程度拭いてやってからバスタオルで身体を包み込んでそのまま抱き上げる。
以前歩いて脱衣場に行こうとして水に足を取られて転んだ事があり、それ以来スクアーロがこうして運んでやるようになった。
よいしょよいしょと着替えを始めたのを視界に入れ、己の長い髪から滴る水を鬱陶しげに拭いながらコレを風呂に入れてやるのもあと数える程しかないだろうとふと思った。
子どもの成長は早い。
何れ、目の前の子どもは誰の手も煩わす事なく自ら何でも出来るようになるだろう。
本来ならそれは喜ばしい事であるのに、言い表せない虚無感に襲われる。
日常化したものが非日常へと変わる。
その変化を、果たして自分は素直に喜べるであろうか。
「スクアーロ!」
「…なんだぁ」
「髪乾かしてー!」
服の裾を掴んでこちらを見上げるソレに、当然ではあるが自分の考えていることは解らない。
何故か急にどうしようもなくむしゃくしゃして、スクアーロはやや乱暴に髪の毛の水滴を拭った。
「わぷ!いたいー!」
「大人しくしてろぉ!」
「してるー!」
「てめ、チョロチョロ動き回るんじゃねえ!」
「きゃー!スクアーロがおこった!」
楽しそうに逃げ回るソレを捕まえて無理矢理ドライヤーの温風をあてる。
髪が絡まないように手櫛で梳かしてやると、段々眠くなってきたのか頭がこくりこくりと船を漕ぐ。
ドライヤーを止め、仕方がない、とスクアーロは慣れた様子で此方に凭れ掛かる小さな身体を支えてやる。
寝息を立てて幸せそうな笑みを浮かべながら寝るソレを叩き起こすなんて事は出来ず、片手でひょいと抱き抱えて寝室へと向かった。
──
「んー…とうがらしようかん」
「…一体どんな夢見てんだぁ?」