避けてたのは、私だ。向き合っていなかったのは、私だ。
相容れないと彼だって私を良く思っていないと、勝手に思い込んで壁を作って、殻に閉じこもって、拒絶した。
理解していないのは私だけだった。
じっと私を見る恭弥の瞳には酷く困惑した顔をしている自分が映っていた。彼は、恭弥は、私をちゃんと見ていたのかもしれない。目を背けることなく、ちゃんと、しっかり。
「要らない、よ」
声は、震えてはいなかっただろうか。私は殻を破れない。線を越えられない。だから頷けない。「…そう」ごめん、ごめんね。
「じゃあ僕が行くよ」
「い、要らない…!だって、私と恭弥が一緒に居たら──」
「一緒に行く、なんて言ってないよ」
「……え?」
「姉さんは、一人で、いつも通りに行けばいい」
それは、つまり──。その言葉を理解して、何故だか酷く泣きたくなった。堪らず恭弥の学ランを掴む。
そんな事、しなくていいから。私は、大丈夫だから。
震える唇をなんとか動かして蚊の鳴くような声でそう紡げば、それも彼の言葉に一蹴される。
「僕は、大丈夫じゃないよ」
「え…」
「そろそろ、逃げるのやめたらどう?」
厳しい言葉とは裏腹に声色はどこまでも優しかった。瞬きを一つして、私は顔を上げた。上辺だけではなくちゃんと“見よう”と思って恭弥を見た。
「やっと、見たね」
「…ごめん。あと、ありがとう」
「うん」
ぴしり、と何かに亀裂が入った音がした。悲しげに鳴くそれに耳を傾けてはいけない。前に進まなければならない時が、来たのだろう。
まだ完全に殻から抜け出せない私を愚かだと、可哀そうだと思うだろうか。「姉さん、」とまだ少しだけ混乱している私を見透かして恭弥は驚く程優しい声色で、言う。
「焦らなくていいよ」
「……っ」
本当に、別人みたいだ。でも目の前に居るのは確かに血を分けた私の弟である。
こくり、と静かに頷いた私に満足したのか、恭弥は静かに席を立った。そのまま部屋を出て行こうとするので咄嗟に声を掛けてしまった。学ラン姿の彼を視界に入れてそう言えば出掛ける途中だったのだと今更ながら思い出した。
「何処、行くの?」
「目障りだから、咬み殺しに」
え、と。思わず言葉を詰まらせた私に恭弥はそれ以上言葉を発しようとはせず、そのまま部屋を出て行ってしまった。聞き間違えじゃなければ、今から彼の行く先は──。
真っ白い包帯を指先でなぞりながら、ふ、と笑みが漏れる。本当に今日の私と恭弥はどうかしている。私と弟は全てにおいて正反対だと思っていたが、案外似ていないようで似ているのかもしれない。二人とも負けず嫌いで、意地っ張りで、…不器用だ。
いつか、私が恭弥の隣を、恭弥が私の隣を、当たり前のように歩く日が来るのだろうか。それに少しだけ期待してしまう私は、やっぱり何処か可笑しい。
所詮は似た者同士