私は、自他共に認める平和主義者である。
如何に毎日を平和に穏便に、目立つことなく細々と過ごせるかに持てる力の全てを注ぎ込んでいる。外では常にレーダーを張り、人と距離を取る。
即かず離れずの微妙なラインを見極め、その曖昧な一線を越えないようにして人と関わる。それには物凄い精神力を使うが、お蔭で日常生活において第三者と喧嘩や口論になるなんて事はまずない。


平穏な生活を得るにはそれ相応の努力と代償が必要なのである。


他人と距離を置く事を悪い事だとは私は思わない。力を持たない人間の、一種の防衛策であると考えているからだ。
距離を置いていれば面倒な事に巻き込まれる事も少ないし、万が一裏切られたりしても傷は浅く済む。臆病者と思われたっていい。こういう生き方を否定する人間は、ただ自分を過信しているだけの愚かな人間だ。人の生き様を否定出来る権利を持つ者など、いない。どれが正しく、どれが間違った生き方なのかという基準自体が明確に存在していないのだから当然だ。

力を持たない私はこうして自分自身を守ってきた。そんな私と対照的なのが、二つ下の私の弟である。私とは違って弱者を嫌い、力が全てであると考える弟は私の目から見てもそこ等辺の子どもより余っ程強い。
他人に分からないように一線を引く私とは違い、彼は自分以外の全てをあからさまに拒絶する。仲間を必要とせず、誰とも関わろうとはしない。孤高の雲のようだ、と誰かがポツリと呟いた言葉が今でも忘れられない。独りで生きる為に、彼は力を欲した。


だから私は、彼に出来るだけ関わらない。私たちは、相容れない仲だ。私が平穏に毎日を過ごすのにはっきり言えばあの子は邪魔だ。
例えば、彼が隣に居るだけで、私の日常は日常でなくなる。彼が隣に居る、というだけで周囲の視線は彼を捉え、必然的に私にもその視線は向く。それが私には耐えられない。
彼にとっても、私は邪魔な存在であろう。他人と距離を置きたがる癖に独りにはなりたくないという私の生き方を、彼が快く思っている訳がない。

独りになりたくない姉と、独りになりたい弟。

その二者が交わることは、多分、ない。お互いがお互いを理解出来ないのだから当然の事だろう。嫌いではない。けれど、好きでもない。
大切な存在かと問われれば、間を置くことなく私は頷く。生き方や考え方が違っていたとしても、彼が、世界でたった一人の私の弟であることに変わりはないのだから。


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