ポタポタと髪から滴る水と頬を伝うぬるりとした感触が酷く不快だ。折角隊服が防水仕様だというのに、頭がずぶ濡れの所為でこれではまるで意味がない。フードがお飾りではない事に漸く気が付いた。ボアも邪魔くさいと思っていてごめんねとルッスーリアに向けて心の中で謝罪しておく。
炎切れで匣兵器が匣の中に戻った。既に決着は付いていて、雨属性の匣の使用者は数メートル先で地に伏している。仕事は熟したがこのザマだ。我ながら情けない。
雨の“沈静”の所為で身体が酷く怠い。力が上手く入らなくて壁に背を預けてずるずると座り込む。頭の奥がぼんやりとして気を抜いたら眠ってしまいそうだ。こんなところ作戦隊長に見つかったら「ツメが甘ぇんだぁ!!」とどやされるに違いない。そんなタイミングでコツ、とブーツの音が耳を掠める。

「ししっ!見ぃーっけ」

「…ベル」

蹲み込んで私の顔を見つめる彼とはその長い前髪の所為で目が合う事はない。ゆるりと伸ばされた指先が頬に張り付く髪を払う。
「ダッセーな」「耳が痛い」うししし、と笑う声に苦笑で返すと頭に何かが被せられる。ボーダーシャツ一枚になった彼の姿を見て被せられたのが彼の隊服だと気が付いた。ぬくもりが残るそれは冷えた私の身体に安心感を齎す。

「優しいね」

「当ったり前じゃん。オレ王子だもん」

ベルらしい返しに笑ってしまう。そのまま有無を言わせずひょいと抱えられ、急な浮遊感に少しだけ驚いた。何より、この細身の何処にこんな力があるのだろう。服も水を吸い上げて更に重みを増しているだろうし、なのにベルは文句の一つも言わない。

「ベル、ありがとう」

「ん、貸しイチな」

フードの上から頭を乱暴に撫でられる。全身を包み込むベルの匂いに酷く安心する。心地良くて愈々眠気に抗えなくなってきた私は、苦し紛れにベルのボーダーの服を掴む。

「寝んの?」

「んん、ちょっとだけ…」

「ま、終わったから別にいーけど」

ベルが来てくれて良かったとぽつりと言うと、きちんとそれを聞き取ってくれた彼が鼻を鳴らす。指先が唇を突いて間を置く事なく啄むような口付けが降ってきた。「冷たっ」私が抵抗出来ないのをいい事に、好き勝手するベルが耳元で声を上げた。

「帰ったら、あたためて」

「その言葉、忘れんなよな」

熱っぽいその言葉を最後に私の意識はそこで途絶えた。何にせよ、まずはスクアーロのお小言を聞いてからだな。あとはベルがいつもより優しく甘やかしてくれたらもう何も言うことはない。
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