どこが好き?という有り触れた問いかけには「手」と答えた。それを聞いた彼が「顔じゃないんだ?てかそこは“全部”って言うトコでしょ」と歯を見せて笑った。


心地良い眠りだった。柔らかなマットレスの感触も身体を包み込む肌触りの良い毛布もすぐ近くに感じるぬくもりも──何より、私の大好きな手が私の頭をそっと撫でている感触が堪らなく気持ちが良くて好きだ。
薄っすらと目を開けるとカーテンの隙間から漏れる眩しい光が朝を告げていた。余程の事がない限りは今何時だろうと飛び起きて時間を気にする必要も、不必要に焦燥感に駆られる事もないから休日とは最高の一言に尽きる。ほんの少しの喉の渇きと下腹部に色濃く残る倦怠感に深い息を吐き出した。

「あ、起きた?」

耳に馴染む低いその声の主は随分と早く起きていたようで、ビー玉のように透き通る綺麗な瞳をゆるりと細めて柔らかな笑みを浮かべていた。
頭部を撫でていた手が耳の裏を滑り頬に移動して、大きな手はすっぽりと私の頬を包み込む。あたたかくて安心する。目を閉じて擦り寄る私に「猫みたい」と五条さんは喉を鳴らした。

「相変わらず僕の手、好きだね〜」

「ん、」

男の人らしい、私よりも一回り以上大きな手。節くれ立った指先は長く、綺麗に切り揃えられた爪先まで溜息が出るほど綺麗だ。パーツモデルの人の手みたい、と思うがこの人はそもそも手だけでなく顔もスタイルも花丸百点満点、見てくれだけは文句なしの人間国宝級だったと我に返った。
起き抜けの意識が漸く正常に機能し始め、右手に違和感があると思ったら五条さんに手を握られていた。きゅう、と緩く握り返すとやっと気が付いたかと言わんばかりに絡められている指先が手の甲をなぞる。

二人で同じベッドで朝を迎えて、こんな他愛ない戯れをし合う。これ以上幸せな事ってあるのだろうか。ぬくぬくと毛布に包まり直すとそのまま五条さんが抱き枕のようにすっぽりと私を覆ってしまう。手が離されてしまった事は残念に思うが、引き寄せられた事で剥き出しになった肩に舌を這わせた五条さんの悪戯な行為にそれどころではなくなってしまう。

「っわ、何して」

「ん〜?強く噛みすぎちゃったなと思って、お詫びの意味を込めて」

その言葉を咀嚼した瞬間、昨夜の行為がまざまざと瞼に浮かんでしまってカッと頬に熱が走った。毎度いっぱいいっぱいの私は噛まれた時の事や痕を付けられた事を明確に記憶している訳ではないが、指摘された途端、鎖骨の上部分が確かにズキズキとするように感じた。何で噛まれたのか理由は解らないが、目の前の当人に訊いてみたところで納得のいく答えが得られる保証はない。
ふう、と熱の籠った息を吹きかけられると身体は素直に反応をする。ククッと低く笑いながら五条さんは意地悪い顔をして私の顔を覗き見た。

「シたくなっちゃった?」

「き、昨日、しましたよね…たくさん」

「それはそれ。…顔真っ赤にしちゃって、かわいいなぁ」

ちゅう、と触れるだけのキスをされるとじんわりと胸が熱くなって鼓動が速くなる。目許に中指をそっと這わせて五条さんは囁きかける。

「僕はさ、君の全部が好きだけど、特に目がお気に入りなんだよね」

「私の目は、何処にでもある普通の目ですよ。五条さんのように特別なものでは…」

「僕にとっては十分トクベツなの」

僕の好きな子が、同じように僕の事を好きだってありったけの気持ちを込めて見てくれるんだよ。あとはね、僕に意地悪されて欲しくて欲しくて堪らないって半泣きで縋り付いてくる目とか、気持ち良くて意識トびかけて欲にドロッドロに溶かされてる目とか。

薄い唇から紡がれる言葉がどんどん不穏な方へ傾き、後半は殆ど頭に入ってこなかった。
防衛本能からそろりと腕の中から抜け出そうとすると、それを見計らってにっこりと意味深に微笑みながら五条さんは耳元に唇を寄せてきた。

「君もさ、僕の手好きでしょ。君が触れられないところまでコレがナカに入っていくの、気持ちいいもんね」

「ひえっ」

「昨日みたいに手を繋ぎながらシよ?たくさん触って、嬉しくて泣いちゃうくらい甘やかしてあげる」

「ご、五条さん勘弁してください」

「だーめ」

視界がぐるりと反転する。「可愛い恋人をその気にさせるのも僕の役割のひとつだからね」その言葉を聞いて、どうやら始めから私に拒否権はなかったのだと知った。良いように扱われている感は否めないがそれでも良いかと思ってしまう程度には私はこの人に絆されてしまっている自覚はある。
「…朝ごはん、パンケーキがいいです」毛布を剥ぎ取りにかかった手を捕まえてそう強請れば間を置く事無く「ホイップ付きね」と淀みない返事と共に唇を塞がれた。
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