※卑猥につき注意





「つらい?助けてあげようか?」

「…ッ、結構で、す」

「強情だなぁ。ガマンしててもいい事ないよ?」

「つ、付き合ってもっ、ない人と…し、ません!」

ココアの噎せ返るような甘い匂いに吐き気がする。高熱に魘された時のように頭の中が靄がかって身体全体が熱くて仕方がない。身体の中心部で燻ぶる異様な疼きと呼吸をする度に漏れる荒い吐息がただの体調不良などではない事を決定付けている。クソ、と可愛げのない言葉が無意識に溢れた。
ふーん、と軽薄な相槌を打って、五条さんは床に座り込む私に合わせるようにその場にしゃがんだ。少し先でぶちまけられた飲みかけのココアと落とした衝撃で割れたマグカップを咎めるどころか気にかけている様子すらない。
一服盛られたのだと気付いた時には既に症状は取返しのつかないところまで進行していた。ひんやりとしていた床はすっかり私の体温が移り何の慰めにもならない。押し寄せる激情に抗うように思い切り腕に爪を立てた。

「ああ、ダメだよ。傷になっちゃうでしょ」

「ひっ…ぁ!」

手に触れられただけなのに、電撃が走ったかのように強い刺激に怯えた身体が異常なまでに反応を示した。震える私の手を包み込む一回り以上大きな骨ばった手が労わるように手の甲を撫でた。今の状態では逆効果でしかないが、仕掛けた張本人である五条さんは解ってやっているように思う。
倫理観の欠如、低い貞操観念、加虐的思考。最強の呪術師の名を恣にし、その容姿にも恵まれた五条さんの唯一人並み以下の負の面が現在進行形で私を蝕んでいる。
じっとりと汗ばんだ私の手を、呑まれそうになる快楽に震える身体を、情欲と理性の狭間で抗う私の顔を、恍惚とした表情で見下ろす彼が心の底から恐ろしい。

いやだ、やめて、と懇願に似た拒絶を譫言のように繰り返しても五条さんは何一つ叶えてはくれない。彼が私に触れる度、縒り合わせた刺繍糸のように複雑に絡む理性の糸がぷつりぷつりと確実に千切れていくのを感じる。
この熱から解放されたい、触れてもらいたい、満足するまで気持ち良くなりたいと叫ぶ本能を抑えつけていられるのも時間の問題だった。
私は目の前の五条悟が欲しくて欲しくて堪らない。

「ね、今自分がどんな顔してるかわかる?」

「ひ、ぅ…んっ」

私の手を自らの口元に持っていった五条さんがうっそりと問いかける。僅かにずらされたサングラスから覗くアクアマリンの瞳が獰猛な色を宿して揺蕩う。まるで獲物を目の前にしてお預けを食らう肉食獣みたいだ。

「他の事考える余裕なんてあげないよ」

べろりと薄い唇から覗いた舌が私の人差し指と中指に絡みついたかと思うと第一関節を甘噛みされた。瞬間、言い表せない感覚が背筋を走り抜け、言葉にならない声を漏らした私は酸素を求める魚のように口を開閉させた。
下腹部が情けないくらい寂しい、もどかしいと啼いている。五感のすべてが指先を甚振る五条さんを捕らえて離さない。「ほら、いい加減素直になれよ」悪魔のような囁きが鼓膜を震わせる。

「五条、さんッ…もっ、やだ、つらい」

「うん。それで、どうして欲しい?」

言いたい、言いたくない。滅茶苦茶にして欲しい、やめて欲しい。走馬灯のような速さで流れる本能と理性の鬩ぎ合いに頭が可笑しくなりそうだった。
ぷつん、と何かが切れた音がする。「触って」口から零れ落ちた懇願を拾い上げて、五条さんの口元が弧を描く。
両脇に手が差し込まれ、無抵抗のまま私は五条さんの太腿の上に下ろされる。しかし直後にグリ、と足の付け根に押し当てられたモノにひと際大きな声を上げてしまった。驚きでも嫌悪でもない、紛れもなく期待と興奮が混ざったはしたない声だった。

「僕の事、好き?」

至近距離で突如問われた言葉に「え?」と反応が遅れる。先延ばしにされてしまった行為に身体が疼いて仕方がない。

「律儀なオマエは好きでもないヤツと付き合わないでしょ?貞操観念もしっかりしてるから、ただの他人の僕じゃオマエに触れられない。ねえ、僕の事好き?」

付き合ってもいない人とはしないと断言したのは紛れもなく私だ。決して間違っても可笑しくもないその縛りが今更になって自身を苦しめる事になるとは。
「好き、です」ぼろぼろと涙を流しながら嗚咽交じりに紡いだそれを聞いて澄んだ瞳が嬉しそうに細まった。

「じゃあ、僕と付き合ってくれる?」

「んっ…付き、合う、からぁ!」

「これで両想いだね」とククッと喉を鳴らしながら嗤った五条さんがご褒美とばかりにだらしなく開けっ放しだった私の唇を塞いだ。呼吸の合間に何度も角度を変えられ、潜り込んだ舌が歯列をなぞり、時に舌同士が絡み合い互いの温度を共有していく。こんな気持ちの良いキスを、私は知らない。
強請るように五条さんの服を掴むと後頭部を押さえ込まれぐっと腰が打ち付けられた。服越しでも解るくらい熱を持つ五条さんのそれが水気を孕む私のそこに当てられるとそれだけで達してしまいそうだった。

「はっ…、えっろ」

「ッぁう…ふっ」

もう、無理。五条さんの首に手を回して強すぎる快楽にぐずぐずと泣き言を漏らす私を片手で支えながら彼が立ち上がった。「大丈夫、幾らでも付き合ってあげる」脳髄を溶かすような囁きを私は静かに受け入れた。
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -