鼻を突く硝煙の臭いには、随分慣れた。役目を果たした匣を手の中で弄びながら今回の相棒から無線が入るのを待つ。それでも手持ち無沙汰な事には変わらず、私はポケットからお気に入りの棒付き飴を取り出した。どうも舐めていないと口寂しいのだ。私は喫煙者ではないが愛煙家の気持ちが少しだけ理解出来る。

「センパーイ、此処に居たんですかー」

「フラン」

ひょっこりと現れた今回の任務の相棒を一瞥する。インカムをしているんだから一言連絡をくれたら良かったのに、とも思ったが飴も舐め始めてしまったし余計な事は言わない。
振り向いた私を見て「うげー」と口元だけ歪ませて心が全く篭っていない言葉を投げつけられる。

「よくこんなところで舐められますねー」

こんなところ、というのは足元に転がっている死体を指している。それも、一つ二つではない。別に、もう慣れてしまったから。なんとも思わないと返すと、そうなんですかーと定型文のような言葉が返ってきた。因みにこのやりとりは今日が初めてではない。

「今日は何味なんですかー?」

「さくらんぼ」

「そのチョイスが微妙なところ、センパイらしくてミーはいいと思いますー」

「それ、褒めてないでしょう」

エメラルドグリーンの瞳と、同じ色の髪。私が昨日舐めたクリームソーダ味の飴と同じ色。口に出したらきっと想定している五倍くらいの言葉が返ってくるだろうから黙っておく。
スカウトという名の誘拐でヴァリアーに連れて来られたこの子は、口と態度は悪いがとても優秀だ。今日も、見たところ怪我をしている様子はないし、手際も良い。ベルに無理矢理被らされたカエルの所為でポーズが決められないから匣の開匣が出来ないらしいが、彼の術士としての能力は前任のマーモンにも引けを取らない。

「さ、帰ろうか」

言いながら、ついフランの手を握ってしまい動揺が走る。ぴくりと彼の指先が反応を示したが、何かを言ってくる様子はなかった。なんで握ってしまったのだろう。自分がした事なのに、脳内処理が追い付かない。フランが文句の一つも言ってこないのも怖い。つい出来心で、とまるで魔が差したと言い訳をする痴漢みたいだと自分で思って激しく落ち込んだ。その一切を顔に出さず平静を装う自分に時折恐ろしくもなるが、この職業はポーカーフェイスも大切なのだ。

「センパーイ」

「な、に…?」

呼ばれるのと同時に進行方向と逆の力で引っ張られ、軽く体勢を崩しながらも振り向くと思いの外近くにフランの顔があって目を見開く。その様子を気にする事なく、空いている手が私の口元に伸ばされ舐めている飴を拐っていった。「あ、」と溢した時にはぱくりと彼の口の中に消えてしまっていた。

「思っていたより甘いですねーコレ」

「あ、うん。そうだね…?」

欲しいなら、新しいものをあげたのに。フランの真意が掴めず困惑する私に構わず、口から飴を出したフランは今度は強い力で私の腕を引く。よろめいた私の後頭部を器用に支えて、唇が触れ合った。ぬるりと舌が一度だけ触れ合い、頭が真っ白になる。

「甘いですねー」

そうだねと、今度は言えなかった。
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