鳥の囀りが聞こえて自然と目が覚める。カーテンから差し込む光が夜が明けた事を告げ、ぼんやりとした頭も段々クリアになってくる。
あたたかいベッドの中で欠伸を噛み殺しながら、私はふと背中に感じた温もりにぴたりと動きを止めた。背後に、何かが居る。途端脈打つ心臓に落ち着けと言い聞かせ、ゆっくりと身体を起こそうとするが、それよりも早く腹部に何かが巻き付いた。ぎゅう、と力を込められて私はそれが腕だと気付く。
「うしし」耳に残る独特なその笑い声の持ち主を、私は一人しか知らない。

「ベル、なんで」

「おまえ、ほんとにマフィア?気ぃ抜き過ぎじゃね?」

一体いつの間に忍び込んだのか。ベルに指摘された通り、呑気に眠っていた自分に呆れてしまう。背中にぴったりとくっついたままの彼が私の肩に頭を乗せる。この至近距離でも長い前髪に隠された瞳を見つける事は出来ない。
カーテンから溢れる光がベルの髪に反射してきらきらと光る。それにしても今日はよく眠れた。目覚ましのアラームよりも早く目が覚めるなんていつ振りだろう。

「ベルが居たからかな」 

「は、」

無意識に言葉にしていたようで、ぽかんと口をだらしなく開けた顔を見て小さく笑う。そんなに変な事を言ったつもりはなかったのだけれど。
人の体温とは、なんと心地が良いものだろうか。思わず小動物のように擦り寄ると狭いと抗議の声が上がるが腕の力が強まっただけで殴りかかってくる気配はない。機嫌が悪いと平気でナイフを投げてくるからそれに比べたら多少の圧迫など可愛いものだ。

「ベル、もうちょっと寝よう」

「オレもう眠くねーし」

「そんな事言わないで、ね」

腹に巻きつく腕が不穏な動きをして、衣類を肌蹴けさせて脇腹を直に指先が這う。その感覚がどうにも擽ったくて堪らず私は目を開ける。

「それ、やだ」

「知ーらね」

「意地悪しないで」

「やめねーよ。だってオレ王子だもん」

つう、と肋骨部分をなぞっていた手が更に上に移動しようとするものだから服の上から彼の手を掴んで何とか阻止しようとする。しかし、そのタイミングを狙っていたかのように耳朶に歯を立てられ、身体の力が強制的に抜ける。「んん、」熱い舌と吐息にぞくりと背筋が粟立つ。

「で、これでも寝ようとするわけ?」

「起きる、起きる、から」

「ん」

勝ったと言わんばかりに口元をにんまりと歪めて上半身を起こしたベルは、容赦ない力で私の腕を掴んで引っ張る。心地よかった眠気は今やすっかりと消え失せてしまっていた。
軽く目を擦って伸びる私の耳元で、ベルはまた笑ってトドメをさす。

「続きはまた今夜な」

頬に熱が集まるのが自分でも分かる。文句を言おうと振り向いた私は、その行動さえ読んでいたベルな呆気なく唇を奪われた。──完敗だ。
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