※卑猥につき注意





目が覚めてぼんやりと見覚えのある天井を見上げながらまず思った事は「身体が重い」だった。それは物理的な意味合いと感覚的なもの両方に対してだ。息を吐くだけで身体の節々が悲鳴を上げている──特に下腹部。そして身体に巻き付いている二本の腕。衣類を身に纏っている時は華奢な印象を受けるのに、一糸纏わぬ姿だとまざまざと性差を見せつけられる。
無駄な脂肪が一切見当たらない鍛え抜かれた逞しい体躯。程よい筋肉を纏う腕はそれなりの重さがある。まるで逃がさないとばかりに蛇のように絡みつくそれが気怠さの要因の一つでもあった。
少しだけ目線を上にすると形の良い唇から規則正しい寝息が零れている。昨夜あれだけ熱に浮かされて情欲に染まっていた蒼瞳は鳴りを潜め、初雪のように柔らかな色の伏せられた睫毛が朝日に照らされて眩しい。張り付くような喉の渇きを覚えて二度寝は出来そうにないと五条さんを起こさないよう細心の注意を払いながら力の抜けきった重い腕から抜け出した。

起き上がると自分の身体が如何にダメージを受けているか分かる。少しでも腹に力を入れると内側がずきずきと悲鳴を上げている。気を抜けば昨夜の情事を思い出してしまうので出来るだけ気を散らせて周囲に衣類がないか探す。ベッドの下で無事それらを発見したのでこれ以上冷えぬうちに着てしまおうと足に力を入れたところで息を呑んだ。
私の意思とは関係なく、身体が重力に従って床に垂直に落ちる。ぺたんと情けなく座り込んだままの状態で私は餌を求める観賞魚のように口を開閉させた。足に全く力が入らない。正確には足の付け根が痛すぎて思うように動かせなかった。
今日が休日で本当に良かったと心の底から思いながらまだ夢の中であろう彼にこっそり怨みの念を送る。折角手にした衣類もこの状態では無理だと諦めた私は手の届く距離に落されていた五条さんの真っ白いシャツに袖を通した。長身の彼との体格差は歴然で見事にシャツがワンピース状態、それでも何も着ていないよりはずっとマシだった。

根っからのお坊ちゃんとして育った五条さんは金銭感覚が常人とは大幅にズレていて、この何の変哲もない無地の白シャツは恐ろしい事に新入社員の初任給よりも高い。五条さんはそれを着て平気でカレーうどんを食すような人だから私が何度頭を抱えたか分からない。
袖を三回ほど折り曲げ前のボタンを留めながら確かに肌触りが良い、でもウン十万円の価値が果たしてあるかをぼんやりと考えていると突如腹に腕が回され一気に身体を持ち上げられた。大きく跳ねた心臓の音が煩い。「おはよ」と悪びれる様子もなく真上から降ってきた耳触りの良い声に小さく息を漏らした。一体いつの間に起きたのか緩やかに目を細める五条さんに碌な抵抗も出来ずに組み敷かれる。

「何その恰好。ヤラシーね」

「……五条さん」

煽るように口角を上げた口元に抗議の意を込めて名前を呼ぶと、驚く程掠れた己の声に一番驚いたのは私だった。ああもう嫌だと喉が潰れかけている要因が脳裏に過ってしまって恥ずかしさに呻く。真っ白いシーツに散らばった私の髪を一房手に取って口付けながら五条さんが意地悪く囁いた。

「昨日はかなり無理させちゃったからねえ」

「…悪いと思ってないでしょう」

「そりゃ勿論。──まだ足りないくらいだよ」

太腿を滑る手の感覚にびくりと腰が震えた。その反応を五条さんが見逃してくれる筈がない。くつくつと喉の奥で笑いながら私の首筋に顔を埋め、じゃれるように数回口付けられた後ぬるりとした舌が這う。ひゅ、と喉が鳴った。この流れは良くない。五条さん、と譫言のようにその名を繰り返し、彼の肩を押すもビクともしない。僅かな私の抵抗がお気に召さなかったのか素早く顔を上げた五条さんに剥き出しの耳朶を甘噛みされた。

「ひっ、ぅ…」

「ここ、好きだよね」

ダイレクトに伝わる水音と脳髄を溶かす様な甘ったるい声に眩暈がした。「そういう風に、したのはっ、貴方です…ッ」身を捩りながら息も絶え絶えにそう主張するとあっさりと「そうだね」と肯定の言葉が返ってきた。はあ、と熱い息を吐き出した後に私の視界に入ってきた五条さんは恍惚とした表情で見せつけるように舌なめずりをする。その様が完全に獲物を見つけた捕食者のそれで肩が強張った。──完全にスイッチが入ってしまっている。
折角留めたボタンが一つ二つと外されていき、男らしい太い指先が確かな意思を孕んで臍の下を撫でた。それに応えるように下腹部が疼き羞恥心で頬が染まる。

「はっ…、えっろ」

「や、っ五条さん、やめ──」

「ベッドの中では下の名前で呼ぶように教えた筈だよ」

薄いシャツの上から胸の頂きを弾かれて身体が弓なりに跳ね、抑えきれない嬌声が上がる。指と指の間で強い力で擦られると堪らない気持ちになる。「ごめ、ッなさい」すっかり五条さんによって都合の良いように躾けられてしまった身体は私の意思に関係なく彼に従順になっていく。

「ほら、呼んで」

さとるくん「もう一回」悟くん「もっと」望まれるがまま、何度も彼の名前を口にするとご褒美だと言わんばかりに口を塞がれ、舌先が咥内を蹂躙する。呼吸の合間に漏れる互いの声が物凄く卑猥で背筋がぞくぞくと震えた。

「はやく僕なしじゃいられなくなってよ」

胸を上下させて浅い呼吸を繰り返す私を見下ろしながらまるで懇願するように、切羽詰まった顔で五条さんはそんな言葉を吐いた。
そんな事言われずとも、疾っくに私は──返事すら儘ならない程乱されている私はその言葉の代わりに五条さんの手をそっと握った。
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