雀の鳴き声が朝を告げる。瞼を震わせて、名前は目を覚ました。眠そうに目を瞬かせて、自分がベッドに居ることに気がついて首を傾げた。昨日、テレビを見ていたところまでは覚えている。それからが思い出せない。いつ、ベッドに入ったのだろう。
寝返りを打とうとして、名前はふと違和感を覚える。──狭い?
「……?」
左手が何かを掴んでいる。これは、服だ。…誰の?そこで、漸く名前は覚醒した。気付いた瞬間、声にならない悲鳴を上げ、“それ”から離れようとする。
だがその前に、体に巻きついている腕に力が篭り、抵抗虚しく抱き寄せられた。上から降ってくる笑い声が恨めしい。
「うしし!お前、気付くの遅すぎ」
「……ベル」
寝起きの掠れ声に、一瞬ベルフェゴールの動きが止まる。「やっべ」と独り言のように囁かれた言葉は、何を意味するのだろうか。
「なんで一緒に寝てるんですか」
「名前が寝てたから」
ソファーから此処まで運んだんだぜ?王子やっさしー!と彼は笑う。そうか、彼が運んでくれたのか。記憶がなくて当然だ。
「ありがとう、ございます」
それを聞いてベルフェゴールは満足げに笑い、大きな手が名前の頭をゆっくりと撫でた。それに誘われるように名前の頭がこくりこくりと船を漕ぐ。
「何、まだ寝足りねーの?」
「……ねむ、い」
きゅ、とベルフェゴールの服を掴んで、名前は静かに目を閉じる。折角起きたというのに、また寝てしまうのか。
「名前、」
「……んっ」
半ば寝惚けている名前にそれを防げるわけがなく、大人しく受け入れた。ちゅ、とリップ音を立てて唇が離れていく。それに気分を良くしたらしい彼は、上機嫌で「寝ていーよ」と告げた。
「ベル…」
「んー?」
「…あったかい」
寝起きで敬語が抜けている名前の喋り方は幼子のようで、そんなところが堪らなく可愛らしい。それを知っているのは自分だけでいいと、擦り寄ってくる名前の頭を再度静かに撫でた。そうしているうちに規則正しい寝息が聞こえてくる。寝てしまったのは詰まらないが、こうやって寝顔を見つめているのも悪くはない。
言いそびれてしまったから、次に起きた時には言ってやろう。