小説 | ナノ

とある夏の出来事


「いざやっ…!!」
「シズ、ちゃ………」

身体が、地面が、全てが朱に染まっていく。

いつも通りだった夏。
とある二人の、悪夢の始まりだった。


8月15日の午後12時半くらいのこと。病気になりそうな程眩しい日差しの中、社長に休みをもらい、俺は池袋をぶらぶらしていた。

「げっ、シズちゃん…」
「! 臨也ああああ!テメェまた池袋に来やがって!!」

いつも通り臨也が池袋に来て、いつも通り俺が標識を振り回す。臨也はいつも通り俺の攻撃を避ける。
そんな中、臨也がふと口を開いた。

「シズちゃん、俺は夏は嫌いだよ!」
「ああそうか、よ!!」
「っと、危ないなあ…」

よく解らない宣言をしてきた臨也に自販機を投げる。それすらも軽々しく避けられてイラつきが増す。
次の物を投げようとポストに手をかけると、アイツの暑苦しい黒いファーコートの中から猫が出てきた。

「おい、テメェ猫……」
「バレちゃった…あっ!」

臨也の小さな驚きの声と共に猫がコートから出て逃げていく。逃げ出した猫の後を追っていく臨也の後を追う。

「猫待て!」
「いや、テメェが待て!!」

臨也のコートを掴もうと手を伸ばした瞬間、ふと目の前を見ると赤に変わった信号機が目についた。


気がつくと臨也は居なくて、バッと通ったトラックが臨也を引きずって泣き叫ぶ。血飛沫の色、臨也の香りと混ざり合ってむせ返った。

嘘みたいな陽炎が、「嘘じゃないぞ」って嗤ってる。

眩む視界の中、朦朧として見た臨也の横顔は笑ってる気がした。



何度繰り返したのだろう。何度も8月は過ぎ去って、でもまた繰り返して、陽炎が嗤ってお前を奪いさる。
繰り返して何十年。もうとっくに気がついてただろ?
こんなよくある話なら、結末は一つだけだ。

繰り返した夏の日の向こう――



バッと押しのけ飛び込んだ、瞬間トラックにぶち当たる。
大嫌いだった臨也の泣き叫ぶ声がした。
血飛沫の色、臨也の瞳と、軋む身体に乱反射して、
文句ありげな陽炎に「ざまぁみろよ」って笑ったら、実によく在る夏の日のこと

そんな何かがここで終わった。

















8月15日のベッドの上。
黒髪の男はただ、「また駄目だったよ」と涙を流しながら呟いた。



end.
カゲロウデイズ//
じん(自然の敵P) Feat.初音ミク



  
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