前編



『生真面目を体現した』と陰で囁かれている上司が、
これまた大真面目で話している内容に永繕は頭痛を覚えていた

「で、その話は事実なのか?」

「・・・その件につきましては私では返答しかねます」

眉間に深い皺を作り、重いため息を吐く敖潤

期限切れの書類を提出しにやって来た永繕は直立不動のまま後悔していた
『大将に持って来させれば良かった』




「・・・『天蓬元帥と捲簾大将は恋人同士』
誰がこんなデマを流したのやら」

「・・・・・・・・はぁ」

忌々しいと舌打つ敖潤はただの親馬鹿に見える

悪い虫が付かないよう、過保護に大事に成長を見守ってきた
『箱入り娘(?)』はとびきり質の悪い虫を好いてしまった
(敖潤的には『まとわりつかれた』だが)


「何かわかったら私の方にも、一報願いたいが」

「いくら護衛と言えど、『私事』までの介入は認められておりません」

そこは敖潤閣下も御存知では?

永繕の真摯な目(若干、呆れた)に敖潤は息を飲んだ

そして、2度目のため息を吐く


「・・・わかった。もう下がってよろしい」

「失礼します」

ビシッと敬礼し、背筋を伸ばした永繕が退室間際に見たのは
『年頃の娘が心配で頭を悩ませる父親』
の姿の敖潤だった






「けぇーんれぇ〜んっ!!
ここまでは貴方のとこでしょ〜?」

「はぁ?・・・いージャン、お前やっといて」

「ダメですっ!これじゃあ分けた意味が無いじゃないですか〜」



仲良く宿題する学生宜しく、1つの執務机に向かい合って書類整理をしている
直属の上官2名に永繕は先程の敖潤とのやり取りで己はミスをおかしてはいないと確信していた

『天蓬と捲簾が出来てる』

なんて誰が見ても明らかだったし、本人達も隠す素振り等一切ない

天蓬のお気に入りは『捲簾』だと第一小隊は皆認めているし(涙を流しながら)、
天蓬も捲簾の後をちょこちょことついていく


捲簾も『隠すより公にしていた方が楽』だと認識しているので
人前でのイチャイチャに抵抗は無い


周りの噂(覆しようのない事実だが)に過敏に反応しているのは敖潤だけで、
それもやはり『娘の彼氏に認めたくない』という父親心理からだろうと永繕は考えていた

なので、余計な事は言わずに逃げ帰ってきたのだ


「書類、進んでますか?」

ふたりが処理し終えた書類を集める
そんな永繕に捲簾は丁度、書き終えたばかりの物を手渡した

「俺のとこは、な」

「ちょっとー!!ここまでは貴方のラインでしょー?!
然り気無く僕のとこに置かないで下さいっ!!」

「お前は口ばっか動かしてねーで手も動かせ」

「むぅ〜!捲簾が悪いんですっ!!


ぷくぅと睨み、不満を爆発させている天蓬は中々見る事は出来ない

これも『捲簾にしか見せない素顔』なのだから
天蓬がどれだけ捲簾に心を許しているのかが窺える

というか

何故、1つの書類の山をわざわざ2つに分けて
競争紛いな事をしながら処理しているのが永繕には理解出来なかった


元々、このふたりは『デスクワーク』が嫌いである

なんやかんやと騒ぎながら、仲良く執務をこなす上官2名に永繕はやれやれと息を吐いた





ふたりが書類の山を崩したのはお昼を回って暫く経ってからだった

一服するであろう上官達の為に永繕は珈琲(天蓬にはミルクティー)とお菓子(天蓬用)を準備する

捲簾と天蓬はソファーに二人並んで永繕の読み通り煙草を吹かしていた

「お待たせしました。
大将はブラックで宜しいですか?ミルク、入ります?」

「ん〜、そのまんまでいいぜ、サンキュ」

トレイに乗せたカップを捲簾に
グラスは天蓬に手渡す

「永繕の作るミルクティーは冷たくて甘くて最っ高!ですっ!!」

「ありがとうございます」

律儀に頭を下げる永繕に捲簾が苦笑する

「僕、捲簾と永繕の作る飲み物が1番です」

「お前ホントに恵まれてんなぁ」

「えへへV」

ニコニコとご満悦の天蓬は定位置である捲簾の脚に向かい合うように座った

右手に持っていたカップを左手に持ちかえ、捲簾は天蓬の腰を支える

「溢すなよ?」

「両手で固定してるんだから大丈夫ですよ〜」

のほ〜んと花を飛ばし、リラックス状態に入る天蓬に捲簾は目を細めた


「・・・・・・」

休憩となれば互いにくっつきまくる2人を永繕は毎日見て慣れてしまっているから特に何とも感じないが

これをもし敖潤が見たら一体どうなるのだろう

捲簾に刀を突きつけるくらいはやりそうだ


第一小隊は皆が『天蓬の幸せ』を願っている

天蓬が哀しまないよう、常に全力である

それは洋閏筆頭の親衛隊もそうだし
天蓬護衛が最優先任務である永繕にとっては身体上は勿論、心の平穏も含んでいる

なので、敖潤が怒り狂おうがそれで天蓬が顔を曇らせば全員が懲罰房行きを覚悟で抗議するだろう

(うちの総指令官はそこら返は分かってないんだろーなー)

イチャつく二人に遠い眼差しを向け、永繕は敖潤に同情した





珈琲をのみ終え、一服もすんだ二人は暫くそのままの格好でボッーとしていた

天蓬に関してはチョコを食べた所為か、うとうとしている

「眠い?」

「・・・んぅ〜」

捲簾の軍服を掴み、ふるふると首を横に振る

クッと喉を鳴らして捲簾は絹のような触り心地の黒髪に手を入れる

小さな頭部撫でると天蓬は気持ち良さそうに瞳を閉じた

「このまま寝る?」

「・・・ちょっとだけ」

「わかった」


捲簾の低音が子守唄代わりなのか、天蓬はすぅすぅと寝息をたて始めた

その様子に捲簾も満足して、天蓬の額に口付ける



「はいはぁーいっ!!
いつまで休憩してるんですかー!!
業務開始時間過ぎてますよっー!!」


パンパンと手を打ち鳴らし、永繕は大声を張り上げた

天蓬がビクリと飛び上がる

「・・・ふにゃ?」

「ヲイヲイ。天のせっかくの睡眠時間奪う気かよ」

唇を尖らせた捲簾に永繕はため息で返した

「元帥の睡眠時間削減してるのは大将でしょ
はい、こちら会議の資料です。
14時からなのでダッシュで行かないと間に合いませんよ」

「ぅげっ!?それ早く言えってっ!!」


壁時計は長針は『10』を指している

天蓬をソファに寝かせると捲簾はドタバタと執務室を飛び出した

きちんとソファに寝かせた天蓬の眼鏡を外し、大将席に置いたのは流石と言える


慌てる捲簾の背中を見送った後、永繕がソファに視線を移せば

白衣の中で天蓬が丸まって眠っているのだった



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