小さい…?

たまたま立ち寄った町に大きな宿。
その充実している宿泊施設の一番の特徴は、何といっても充実した共同の風呂設備だ。
悟浄と八戒は早速とばかりに、更衣室で服を脱いでいく。
しかし悟浄は、ある不純な理由で中途半端に脱いだまま動かずにいる。
それは先程から隣で肌を露出していく八戒の素肌に思わずチラチラ横目に入ってしまうからだ。
普段長袖長ズボンを着用する八戒の肌は、日に当たらないせいかやはり白い。
しかも触れた者にしか解らない、肌のなめらかさがある。
同性とは思えない心地好い肌の感触は、今だに飽きるコトはない。
−−と、不埒なコトが頭に過ぎる悟浄はハッと、思わず周囲に目を光らせた。
勿論、人のモンを目におさめる不届き野郎がいないかをチェックする為だ。
目を光らせているおかげか、その場にいる不届き野郎(若い男を中心に)は悟浄の睨みを逸らしながら、素知らぬ顔を続けている。
油断も隙もねぇなオイ、と思っていた矢先。
隣にいる八戒からの不自然な視線に気付いた。

「……そんなにマジマジに見られると、何か気まずいんだけど」

あろうことか、八戒の視線はいつの間にか中途半端に脱げている悟浄の身体の下方に向けられているのだ。
同性なのだから別に裸見られた所で気にはならないし、八戒相手なら尚更。
ただ……、八戒だからこそ、見られると色々とマズいアクシデントが起こるだけで。(つまりアソコが元気になってしまうという意味で)
何がとは言わずとも察して欲しい。
個人的には別に構わないが、そうすると隣の相方からの冷却な対応が恐ろしい。
笑っているのに、『状況と場所を弁えて下さい』ピシャリと容赦なく言い捨てる八戒が容易に想像出来た。

「……前々から思ってたんですけど……」
「何が?」

今だにあの綺麗な青緑の双眸は股間付近に向けられ、何やら言いにくい言葉を発する八戒。
少々嫌な予感が過ぎったが、それでも先を促した。

「悟浄のって……、意外と小さいですね」

一瞬の放心の後、ガンっ! と頭上に大岩が降り落ちるような大きな衝撃が脳天に響いた。
−−何が?
−−どこが?
具体的に聞きたいのは山々だが、これ以上聞くな! と脳が自分に圧力をかけ出す。
普通に穏やかな声色とは反対に、残酷に言い渡される言葉に、今にも顎が外れそうになった。




「−−はっ、ゆ、夢か……?」

勢い余って起き出したせいで、ギシリとベッドが揺れた。
咄嗟に辺り周辺を見渡すと、宿泊している部屋の中だった。
悟浄は心底、夢で良かったとつくづく思いながらホッとため息をついた。
夢の影響で嫌な汗が首を湿らせ、思いのほか手首で拭き取った。
すると同じベッドでもぞもぞと動くのは、寝具に包まれ一糸まとわない姿で寝ている八戒だった。

「悟浄……? いったい、どうしたんです……?」

隣で少々掠れ、眠気を含んだ八戒の声に、思わず息を呑んだ。
直ぐに平常心を総動員させて、有らぬ疑いを持たせないよう返事した。

「……なんでもねーよ」
「そうですか、なら、いいんですが……」

ちょっときごちなく答えてしまったが、八戒はさほど気にも止めずていない様子だった。
少々気怠げに物を言いながら、再び静かな寝息が聞こえた。

−−リアルじゃなくてマジで良かった。
意外とあどけなさを残す八戒の寝顔を見ながら、そう思わずにはいられない悟浄だった。



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