上下反転

使い慣れた自分のベッドが、男二人の体重にギシリと悲鳴をあげた。

「珍しいジャン。お前からやる気になるなんて」

こちらから揶揄を込めて笑い返せば、柔和な笑みが少し陰がかかって見えた。
左右の耳の隣には、悟浄の顔を囲うあの綺麗な手。
事のいきさつを簡潔に述べるとこうだ。
今日は日課に近い賭博を気分が乗らない理由で、一日中自分の部屋でゴロゴロと過ごしていた。
夜になると控えめなノックをわざわざする八戒が、部屋に入ってきたと思えば、ニコリと笑ってベッドにいた自分を押し倒してきたのだ。

「嫌ですか?」

−−この積極的な僕が。
発する声から妖しさと艶めいた色気を感じさせ、ゾクりと背筋に戦慄が駆け出す。
普段は情事に関して消極的な八戒から、何を思ったのか珍しくやる気になってくれたのだ。
嫌に思う所か、寧ろ歓迎すべき出来事だ。

「いいや。美人になら見下ろされても許せるわ、俺」
「それは良かったです」
「ああ、で・も」

最後に付け加えるように言いながら、左右を囲う細い手首を掴んで、瞬発的に腹筋に力を入れ、乗っかる細躯を押し上げた。
八戒は予想外の動きについていけず、なすがままになり、今度は悟浄から細躯を押し倒した。

「どっちかというと、俺は押し倒す方がスキ」

あっという間に見上げる側になった八戒は、突然の寝技に目を見開かせていた。
見開かせる瞳の先は驚いたというより、きょとんと雰囲気に感じられる。
が、直ぐにハイハイと述べて青緑の双眸を細めだし、悟浄の首に両手を絡ませて承諾の意思を伝えた。

−−珍しく積極的な八戒には悪いが、こーいう事はやっぱり俺が優位に立ちたいのよね。



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