合意

チェックインしたばかりの部屋のドアを閉めた途端、相部屋となった悟浄によって強引に体を引き寄せられる。

その際に愛煙家の悟浄から、染み付いたハイライトの匂いが鼻腔をくすぐった。
低い体温の身体にとって、特に高い体温は非常に心地好い。
緊張がほぐれて、徐々に余計な力が抜けていく。
心地好い抱擁を前に、旅疲れの疲労が一気に体に現れ出たのだろう。
いっその事、このままこの身を悟浄に委ねようかと瞼を閉じかけた時。
予告無く、手慣れた動きでベッドへ身体を倒された。
倒された身体に乗り出して、ニヒルの笑みを向けて見下ろす悟浄。
−−随分手荒い誘いですね。
そっと顎に添えられた無骨の手は、妙に優しげに触れてきた。

「随分性急ですね。誰もまだオッケーしてませんけど?」

目の前を支配するのは少し影がかかった紅の双眸。
顎に沿えられた手のせいで、顔を逸らす事が出来ず、見下ろす視線から逃れられそうになかった。
するとニヒルな笑みから子供の笑みへと変化した悟浄。

「じゃあ、合意をちょーだいよ」

それは甘え上手の声。
子供のような表情。
なのに、何処か男の色香を残した雰囲気と匂い。
ベッドから逃がさぬように、いつの間にか無骨の手が手首を捕らえていた。
しかし、その拘束力は強引に足掻けば逃れられるだけの微力のものでしかない。
あくまで、こちらの合意を得てからのつもりだろう。
全く、卑怯ですよね。
ここまでこられたら、断れない僕を知ってやっているんですから。

「仕方が無いですねぇ」

これが疲労が残る身体に鞭を入れてでも、この甘え上手な悟浄の誘いは断れない理由なのかもしれない。
八戒からの合意を得て気を良くした悟浄は、カフスの付けた耳に口づけて、衣服を剥がされていく。
そして、今度こそ別の意味でこの身を悟浄に委ねて瞼を閉じた。



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