とある一室のドアを開ければ予想通り、書物やら下界から持ち帰った本人曰く、造型美だとぬかしてる変なモノと一緒に雪崩混んできた。
開ける前からこの事態は予想出来ていたので避ける事が出来たが、初めてこの部屋に入った時、未熟ながら大量の書物と変なモノと共に雪崩に巻き込まれたモノだ。

己が加える煙草で紫煙をふかしながら、懐かしい事を思いふけ室内に足を踏み入れば、また予想以上の散らかり様だった。
足の踏み場が全くない、床は書物と変なモノに埋もれて床が見えない。
おまけに、部屋の各四面に一体ずつ置かれたケンタのおじさん像が、まるで捲簾を侵入者といわんばかりに睨みつけているようにこちらを向いて、かなり不気味である。
前にここに訪れた時には無かったので、恐らく行方をくらました間に拾ってきたのだろう。
どうやって捲簾よりも大きなケンタのおじさん像を数体、しかも一人で誰にも目撃されずにここまで持ってこれたのか、かなりのミステリーだ。
決して狭くない室内を見渡した捲簾は、ここまで散らかせられるこの部屋の主に、もはや怒りと呆れを通り越して、心底感心させられる。
勿論感心の意味は嫌味だ。

下界でいう数日の間。
突然、天蓬はふらりと姿をくらました。
なんの予告もなく突然姿を消すのは日常茶飯事であり、恐らくまた下界に降りては、自分の趣味に花を咲かせている事は、この部屋に溢れるばかりにある変なモノが証明している。
元帥という軍位を持った者しか判断出来かねない、もしくは処理出来ない仕事だけを片付け、後の仕事を全て押し付けて来たこの数日間の出来事は、この際大人になって我慢してやるつもりだ。
そして、別に他人の趣味や詳しい居場所をいちいち関与はするつもりはない。
しかし、現在のようにそれなりに深い関係になっても、姿を消している間の詳細を気にならないと言えば嘘になる。
互いに束縛は何より嫌う為、お互い何処で何をしようとも何も聞かないのが捲簾と天蓬との間にいつの間にか出来た、暗黙のルールだったりする。

(……人の気も知らずに、幸せそうに寝やがって……)

それでも、やはり限界がある。
この傍若無人で、刹那的にひん曲がっていて、何処か抜けて飄々とした態度。
しかし、何処か自分と同じモノを持っていると思わせる、今までに出くわした事がないタイプだ。
こいつに出会う前までは、例え嵌まった女がいても、その女が何処で何しようと関係ないと思っていた。
深く干渉したくないし、されたくもない。
今でこそ煙草と花や酒を楽しむ事で火遊びは下火であるが、少し前まではかなりの火遊びをしていたものだ。
ドライな性格の女だけ抱いて火遊びを楽しみ、そして飽きたら別れる事の繰り返し。

なのに、今はどうだ。
『誰が何処で何しようと興味なし』のが、『勝手に黙ってどっかで行方くらましやがって、出掛けるなら一言くらい言って行け』と、考えが変わっていた。
いつの間にかするりと抜け出し、何処かへ勝手消えてしまうそんな不安、かもしれない。

書物や変なモノの中で呑気に眠っている天蓬の顔を見下ろしながら見定める。
整った美しい顔立ちは中性的で、しかしズレたまま眼鏡をかけている寝顔は、少しだけあどけなさが出ている気がする。
どちらにしても、顔が綺麗という事には変わらない。

この美しくそして何処か儚さを持った外見とは裏腹に、敵と見做した者には一切の容赦ない一面がある。
普段はズボラで私生活に置いてだらし無い性格とは反面に、天界西方軍元帥という非常に高い軍位に見合った戦闘能力と状況分析を持ち、部下を率いながら己自身も前線に立つ。
昔と違って単独プレーは止めさせて、如何に被害を最小限に抑え、討伐を短時間で終わらせるかを分析する。
しかし、冷静で冷酷な一面を用いていながら、部下を使い捨ての駒に見れず、しかも部下を守る為なら自分の身を投げる、最後まで指示を出し部下を導く上官としてあってはならない一面がある。
だからこそ、部下にも慕われ、寧ろ影では天蓬に畏敬の念を抱く信者すらもいる。

−−…深く付き合えば付き合うほど、この男が分からなくなる。
そして、何処かほっておけずに、いつの間にか目が離せずに、いつまでも飽きない面白さもある。

(全く、厄介な奴に惚れちまったモンだ)

吐いた溜め息からは数多の幸せが逃げるぐらい、深い溜め息を吐き散らかした時だった。

「……人の寝顔を見て溜め息とは、全く失礼な人ですね」

今だに寝って瞼を閉じたままの体制で、天蓬は口動かした。

「……ウチの副官様は随分タヌキ寝入りがお上手デスコト」
「あ〜……、久しぶりによく寝れました」

捲簾の嫌みなど気にするそぶりも見せずに華麗に無視し、腕を伸ばしてあくびをした後、上半身を起こしだした天蓬は、起きて早速とばかりに愛用のアークで喫煙を始めようとしていた。

「火、いる?」
「ええ、頂きます」

煙草を加えるまで良かったが、ライターを見失っている様子を見兼ねた捲簾は、己の加えている煙草の火を、天蓬の加えたアークに分け与える。

そうなれば必然的に、長い睫毛が見て分かるぐらいに顔が近づく。
捲簾はこの距離感をかなり好んでいる。
こうやって何気ない時に近付いて、ひと時を休まるこの刹那な時。
誰よりも実は警戒心が高い天蓬が、進んで近付いてくるこの貴重な時間。
少なくとも、捲簾に対しては警戒心を少しでも緩めていると感じさせてくれる時間。

次第に仄かにバニラの香りが臭覚を刺激し、着火と同時に天蓬は静かに離れる。
少し名残惜しい気持ちに浸りながら、互いに紫煙をふかす。
その間にも捲簾の目は天蓬から離れない。

「なんです?さっきから人の顔をじろじろと見て、気持ち悪い」
「お前ね、気持ち悪いはないだろう、気持ち悪いは」
「だったら訂正してあげます。気色悪い、ですね」
「もっと酷くなってるじゃねえか!」

あまりの天蓬の言葉に声を荒げるが、『冗談ですよ』と言葉の後に付け加えられた笑みは、実に性質が悪かった。
天界に知らぬ者はないという『綺麗な顔』と称される天蓬が、実はこんなにも意地が悪く、クスクスと笑うのだ。


−−−…全く、本当にこんなとんでもない奴に惚れてしまったモノだ。






美人は3日で飽きる
(でも、こいつはただの美人じゃねえから飽きねぇわ)








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自分で書いておいてなんですが、部屋の角四方にケンタのおじさん像があったらかなり不気味ですよね。(ぇ

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