今日は天ちゃんが、良い所に連れて行ってくれるらしい。

ずっと空が晴れていて、桜も咲いてる『ここ』との生活も慣れてきた頃。
今、金蝉の部屋から、天ちゃんの部屋へと走って向かっている。
自分の手足に付けられた枷が、動かす度にジャラジャラとした音がするけど。
そんな音よりも、今日は楽しみにしていた日だから気にならなかった。

少し前に、天ちゃんが『とても良い場所まで一緒に行きませんか?』と言ってきたのが始まりだ。
その時の俺は勿論『行く!』と即答した。
でも、何処に行くかは『付いてからのお楽しみです』だって言ってたけど。一体何処に連れていってくれるんだろう?
昨日の夜からそれを考えてたら、ワクワクしてよく寝られなかった。

あっという間に、天ちゃんの部屋の前に到着。
天ちゃんの部屋は秘密基地みたいで大好きだ。
好きな絵本があるし、ドアを開けようとした時に、本とかよく分からないモノが一緒になって雪崩込んでくるから、いつもドキドキする。
時々、埋もれるぐらい物が部屋に溢れている時は、天ちゃんとかくれんぼも出来るから楽しい。(前にケン兄ちゃんに怒られたけど)

ドアの取っ手を握ろうとした時、前に金蝉に入る時は『のっくぐらいしろ』と怒られたのをふと思い出した。
だからちゃんとコンコンと『のっく』すると、ドア越しから『どうぞ』と聞こえたのでドアを開けた。
ちょっとドキドキしながらゆっくりと開けると、今日は物が雪崩こんでこないみたいだ。

「いらっしゃい、悟空」

ニコりと出迎えてくれた天ちゃん。
慣れ馴染んだタバコの僅かな甘い匂いが、ふわっと香った。
そんな時、部屋の中からケン兄ちゃんもいた。
ケン兄ちゃんも、天ちゃんと同じタバコの匂いがふわっと香る。
ケン兄ちゃんの場合、天ちゃんと違って少し苦い匂いだけど、どちらの匂いも大好きだ。
だって、大好きな人達の匂いだから。

「スイマセンねぇ悟空。この人が一人が嫌だからって、駄々こねて、ど〜〜〜しても一緒に行くって聞かないんですよ」
「いつ誰が誰に駄々こねてたんだよ、捏造すんな。こちとら最近は書類処理で缶詰状態だったからな。息抜きぐらいさせろや」
「とか言って、ただのサボタージュでしょ。どう見たって」
「お前だってサボりだろーが。それに悟空だってこーんな『素敵なおにーさん』と一緒に遠足行けんだから、さぞ幸せだろ、ん?」
「自分で『素敵なおにーさん』って言いますかね、普通。あと、言い忘れてましたけど、残念ながらバナナはオヤツに入りませんよ」
「誰もそんな事を言ってねぇよっ!」
「じゃあなんですか? あ、水筒にお茶じゃなくて、ジュース入れたいっていう要請なら却下ですよ」
「入れるか!」

−−今日もいつも通りの天ちゃんとケン兄ちゃん達のようだ。
話す二人に挟まれながら、この二人のやり取りにも最近は慣れてきた。
天ちゃんとケン兄ちゃんが話しこんでると、楽しいとも思うけど。
少しだけポツンとした寂しさを感じる……。

「ま、細けぇコトはおいといて出発するか!」

すっと差し出されたのは、俺よりも一回り大きな手。
何だか嬉しくなって、その手を握り返した。
すると、天ちゃんの手も手を差し出してくれて、空いた片手で、天ちゃんの手を握った。
両手に繋がれた右手に優しい手、左手に暖かい手。
そんな二つの手に繋がれながら、三人で進み始めた。






連れていってくれた場所は、出発した場所から少し離れた場所。
そこは青々とした空と、一面に白と緑が広がって今まで見たことがないぐらいに綺麗だった。
天ちゃんいわく、一面に咲く白と緑は『シロツメグサ』って名前らしい。
色々と『シロツメグサ』の詳しい説明をしてくれたけど、分かったような分かんないような……。
すると、上からケン兄ちゃんに呼ばれ、ふわっと何かを頭に乗せられた。
何だろうと思って手に持って見ると、教えてくれた『シロツメグサ』で出来た、白と緑で出来た冠だった。

「すっげぇ! これ、ケン兄ちゃんが作ったの?」

初めて見る冠に、思わず声を上げた。
すると、ケン兄ちゃんは得意げになって笑っていた。

「まぁな、結構上手いだろ?」
「相変わらず意外な所で器用ですね、貴方って」
「意外が余計だっつーの」

実は俺も天ちゃんと同じ気持ちだった。
あの大きくゴツゴツしているケン兄ちゃんの手が、こんな細かくて綺麗なモノを作ってしまうのだからビックリだ。
初めて目にした花冠。
初めて人からモノを貰った嬉しさと、同時に自分の手で作ってみたいと思った。

「ねぇケン兄ちゃん。俺にもコレの作り方教えて!」
「あぁ、いいぜ」

すると、すぐにケン兄ちゃんは、自分の前に座り込んで花冠の作り方を教えてくれた。
難しい結び方を何度も繰り返し、何度も失敗になった。
それでも、何度も何度も挑戦し続けた。
根拠良く教えてくれるケン兄ちゃんは、大きな手がするすると編んで、あっという間に出来上がっていくに対し、俺のは今だに変な形をした奴だったり、解けてバラバラになってばかりだった。
ところで、天ちゃんはというと。
始めは加わっていたが、直ぐに止めて一歩離れた距離に腰を下ろしていた。
直ぐそこに、俺よりボロボロにぐちゃぐちゃになった花の塊が、『天ちゃん作』だ。
ケン兄ちゃんいわく、『……ある意味で芸術の域だな』と皮肉っぽく言っていた。
この時、天ちゃんって実は不器用なんだと初めて知り、ちょっとした新発見だった。
−−そして、色々苦戦しながらも、漸く出来上がった花冠。
頑張って二つも作った。
ケン兄ちゃんはそれを不思議に思ったのか、首を傾げていた。

「悟空、なんで二つも作ったんだ?」
「金蝉の分と、それからナタクにあげるから!」

そう言ったら、なんだか、なんて言ったらいいか分からない顔をケン兄ちゃんはした。
俺、変な事言ったっけ? と最初は思ったけど、直ぐに『……喜んでくれるといいな』と言って、手が頭の後ろに乗るように、わしゃっと撫でてくれた。
だからだろうか。
撫でられているせいか、頭が下がって一面の緑を見ると、ある一点だけ不思議なモノを見つけた。
直ぐにしゃんで不思議なソレを、目の側に近付けた。

「なんでこれだけ葉っぱが四枚なんだろ?」

キョロキョロと下を見ても、どれも他は三つしか葉がないのに。
不思議に呟くと、天ちゃんは『どれどれ』と言って、四つの葉の草を引き抜いた。

「悟空。コレは四つ葉のクローバーと言って、ソレを持っていると、幸運をもたらすといわれているんですよ」
「こう、うん?」
「つまり、簡単に言えば、持っていると良い事が起こるってコトです」

今度は分かりやすく説明してくれた天ちゃんは、『はい』と四つ葉のクローバーを手渡してくれた。
でも、直ぐに天ちゃんに返した。

「ソレ、天ちゃんにあげる」
「え、僕にですか?」
「うん。だっていらないもん」
「どうして?」

天ちゃんが聞いてきたので、こう答えた。

「だって、俺にはもう毎日楽しいし。それに、天ちゃんが持ってると、一緒にいるケン兄ちゃんも一緒に良いコトが起こるからさ!」

思ったコトを言い切ると、二人は揃って笑ってくれた。

「−−そうか、ありがとうな」
「大切にしますね、悟空」

日に照らされた二人の笑顔が嬉しいけど、なんだか少し照れ臭かった。

今だってこうして、大好きな二人と一緒にいる。
いつも不機嫌な顔してるけど、戻って帰る度に出迎えてくれる人がいる。
時々、透けた服を着た女の人と、ヒゲのおじさんも遊びに来てくれる。
今は怪我している、出来たばかりの友達もいる。
お見舞いにこの花冠をあげようと思う。
そして、今度こそ名前を教えよう。
俺は『悟空』だって−−。







あれから持ってきた肉まんを食べて、また遊んでいたら、いつの間にか寝ていたみたいだった。

「目が覚めましたか?」

どうやら、天ちゃんの腕にもたれかかって寝ていたようだ。
起きぬけでボーっとする頭の中、少し下を見ると、ケン兄ちゃんが天ちゃんの片膝を枕にして寝ていた。

「大将ともあろう男が、大口を開けて無防備に寝ちゃって−−。これじゃあ、どっちが子供か分かりませんね」

言葉とは裏腹に、何処か優しげにクスクスと笑う天ちゃん。
天ちゃんは起こさないように、優しくケン兄ちゃんの頭を撫でていた。
それを見て『天ちゃんもケン兄ちゃんが大好きなんだね』って言ってみたら、『−−えぇ、悟空と一緒ですね』と優しい顔をしてくれた。
一瞬、気のせいか天ちゃんが黙ってしまったような気がするけど、あまり気にしないことにした。

−−今日は本当に楽しかった。
こうして大好きな人達と、こんな綺麗な場所で遊べるんだから。
今日は初めてモノをくれたり、作り方を教えてくれたり、初めて見る草や花の名前を教えてくれた。
いつまでも、こんな時間が流れたらいいのに。
金蝉は忙しくて来れなかったけど、次は金蝉も一緒にいたらいいな。
そう思いながら、今日も晴れた空を見上げた。






これからも、ずっと
(みんなとずっと一緒なっ!)






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一応、悟空誕生日用です。
うん、本ッッッ当に今更ながら悟空誕生日おめでとう!←

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