※ゼ/ロサ/ム(2月号)のネタバレを含みます、ご注意下さい。























漆黒の三蔵法師との死闘から、数週間が経過−−。
ついに目的地である西域に足を踏み入れた一行。
『負の波動』を色濃く漂う西域で一行に襲い掛かる脅威、今までに対峙した事がない強敵な刺客や恐ろしい妖怪達……、ではなく−−。

今までにない過酷なサバイバル生活だった……。



「−−マジでいつになったら、こんな生活とオサラバ出来るんだろうなァ俺らって」

力なくため息を混じらせ、悟浄は異様に青く感じる空を見上げて呟いていた。

相も変わらず何処かの森の中にさ迷う(徘徊ともいう)一行。
ある時は毎日飽きもしず経文を狙う刺客の襲撃に、辟易しながらも返り討ちが日常茶飯事だったが。
今では襲撃どころか妖怪や、人すら出くわす事がない、全くもって極端過ぎる日々を送っている。
そんな中で身を清められる余裕もなく、伸びた前髪が視界を被って煩わさを感じる。
しかも四人が付けている外套は、全て泥や砂などで汚れ、かなりみすぼらしくボロボロだ。
その上、悟浄は剃らずに放ったらかしているため、人相を悪い顔が無精髭が生え、更に悪くさせる状態だ。
しかしそんな現実でも、本日も一行達の持ち前の悪運が尽きずに、飢えを凌ぎながらしぶとく、生き延びている一行達である……。

そして本日も、日が暮れる前に行う食料確保の始まりだ。
食料となるモノを個別で探すと悟空と悟浄は戦力にならない(特に悟浄は)ので、今回は三蔵と悟空、八戒と悟浄の二手に別れる事になった。

「ハイハイ。口ばかりじゃなくて、手も動かして下さいね」

空を仰ぎながら黄昏れている悟浄とは逆に、八戒はせっせと食用の野草をカゴに入れていった。
さ迷うこの森は、食する事が出来る獣や、食用の野草が豊富な事が何よりの幸いだ。

「前みたいな、えげつねえヤツは除外だからなッ!」
「ハイハイ」

八戒より少し後方にいる悟浄は、きつく念を入れ出してきた。
どうやらいつかの夕食に出した、冬虫夏草が余程悟浄(聞けば悟空もらしい)にはお気に召さなかったらしい。
見た目は確かに問題があるが、飢えている状態ではそんな躊躇など言ってられない。
しかも今の飢える身体には、不足している栄養素が多く含まれているのに、と八戒は内心思った。

そんな他愛のない会話から、しばらく黙々と本日の夕食を探す二人。
黙々と食用の野草を見つけてカゴに入れる流れ作業中に、あえて前を進む八戒は後方にいる悟浄との一定の距離を保っている。
勿論、それには理由があった。
−−正直に言えば、今は出来るだけ悟浄と二人っきりには、なりたくなかったからだ。

「−−、悟浄……」

突然降り懸かる背後からの抱擁に、呟くように名を呼んだ。
八戒が意図的においていた一定の距離が、いつの間にか悟浄からの接近によって、縮まってしまったのだ。
−−こうなる事態を懸念して、あえて距離をおいていたのに……。

背後から絡みつく腕から離れようとすれば、より一層強い力が込められ細い身体にきつく絡みつく。
それでも抵抗する意思を手放さず、八戒は少々手荒く抵抗し続けた。
するとまだ抵抗する八戒に苛立って、悟浄は乱暴に八戒を木の幹に背中を押し付けてきた。

「−−ッ」

太い木の幹に押し付けられ、背中に走った鈍痛に息を詰らせた。
その隙に悟浄は木と体で八戒を挟み、拘束させて自分の思うままに唇を寄せだす悟浄……。

「−−ダメです、悟浄」

唐突な寄せてきた顔に心拍数が上がる一方、頭と声は意外にも冷静だった。
顔を寄せてきた悟浄の額に、咄嗟に出た手で押さえられた。

「……これ、ケッコー傷つくんだけど」
「だって今の悟浄だと、キスだけで終わってくれないでしょう?」

そのままピクリと眉を寄せる動きが、額に重ねた手から伝わった。
手によって隠された今の悟浄の表情は、きっと不服を顔に刻んだ表情だろう。

「つまり、俺にキスもそれ以上の事もされるのが嫌ってコト?」

悟浄は直ぐに八戒の細い手首を掴んで離させ、睨み付けてきた。
互いの鼻頭が触れる距離まで顔を寄せてきた悟浄は、案の定、眉間を寄せて不服そうな顔をしている。
しかし、鋭く睨む紅の双眸からは怒りを宿すが、何処か子供っぽさを感じさせた。

「弁護させて頂けるなら、嫌ではありません。ただ、場所と状況を選んで行動に移して欲しいだけです」
「選んでるジャン。人気がない森の中で二人きりだし」
「野外自体が論外です。例え人気がない二人っきりでも、いつ目撃されるか分からない状態でなんて、真っ平ゴメンです」
「いいジャン。スリルがあって」

悟浄の言葉に思わず重いため息を吐いた。
まるで我が儘な子供がしつこくモノをねだって、困り果てる親の心境だ。
こちらの都合などお構い無しに、また悟浄は一瞬の隙をついて唇を寄せ、接触を謀ろうとするのだ。
危うく触れられそうになったが、ギリギリで互いの唇の間に己の手を挟み、接触阻止に成功する。

「……何がお気に召さないのよ?」

今度は不満げにしている悟浄。
そんな至近距離での睨み合いの中、塞ぐ手の平からは伝わるのは熱い息と、唇を動かす微細な感触と動き。
たったそれだけで、危うく意識が目の前の男に支配されそうになった。

「……キスだけで留めてくれるなら、妥協します」
「ムリ、却下」

あっさり妥協案を突き放す言葉と同時に、無骨の手が無防備な脇へと滑らせてきた。
しかも卑猥な手つきで脇腹から腰へと這う愛撫に、触れられているだけで、危うくあられもない声が出そうになった。

「っ、ちょっ……と、悟浄……!」

妖しい手つきを止める理性と、久方に味わう甘美な衝撃に理性を侵略していく本能。
微細な刺激さえも浅ましく感じ取り、快楽に変換させる浅ましい身体に叱咤して、あくまで拒否し続ける意思表情を示す。

「その目、イイねぇ。……ゾクゾクする」

鋭く目の前の男を睨むが、細めた紅の双眸から臆する様子を一切見せない。
威嚇のつもりが、更に悟浄を興奮させてしまったようだ。

「−−ちょっ、や、ヤメて下さいって……!」

悟浄はあろうことか八戒の手を掴み、八戒から見せ付けるように指に舌を這わせてきたのだ。
慌てて己の手から悟浄を離させようと心みるが、力押しではやはり悟浄が上手だ。
抵抗すればするほど悟浄は調子に乗り、綺麗な手はますます唾液で濡らされていく。

「−−っ」

手は最も神経が集まっている箇所だ。
それゆえにどんな小さな刺激でも見過ごさず、ダイレクトに感じてしまう。
赤く熱い舌が一本、また一本の指を、舌先が指先や指の付け根をゆっくりと辿っていく−−。
次に甲に軽く音を立てて唇を落とし、また執拗に舌全体が手を這う。
しかも、舐めながらしっかりと八戒の顔を伺い、眉を寄せる様子を観察しているのだ。
−−悪趣味にも程がある。

ただでさえ満足に清潔に出来ない状態は、手も例外でない。
ロクに清めていない箇所をしつこい舐め回されるのは、やはり抵抗を感じる。(勿論、清めていてもだが)
先程の淡い愛撫に反応し、不意に言葉が出なかった、今はどちらかというと羞恥が勝って言葉を詰らせていた。

「ッ、悟、浄っ。もう、いい加減に……っ」
「いい加減に、俺が欲しいって?」

ふざけた口ぶりの後、悟浄は唐突に舐める行為を止め出した。

「ちがいま、す……っ、−−ッ!」

その様子にホッとしたのも束の間、抗議の言葉と共に息を呑みこんだ。
何故なら悟浄が服越しに硬い熱を、股に擦り付けてきたからだ。
それにより己の熱は、悟浄の熱に煽られ、自然に淡く点し始めている。

−−悟浄は本気だ。
本気で今、八戒と事を進める気でいるのだ。
淡く駆け上がる快感と同時に、理性は危険信号を知らせるサイレン音を鳴らし出す。

宿で二人部屋になった悟浄に、たとえ甘い誘いに断りきれずに困っても。
何だかんだいって悟浄のペースに乗せられても……。
結局は甘え上手な悟浄に負けて、身を委ねてしまう末路を辿るのがいつのパターン。
今まで絶倫な悟浄に迫られて、最終的に許してきた八戒だが。
野外での行為だけは、絶対に避けたい−−。

まだ完全に理性を手放していない八戒は、なんとか口を動かしだす。

「まってくだ、さい悟浄……。こんな所で本、とうに、ことをすすめ、た、ら……っ」
「いつ見られるか分からないスリルが待ってるってか?」

戯れ事を口にして悟浄は動きを休める事なく、八戒を確実に追い詰めていく。
襲い掛かる官能に理性を手放したくなるが、理性を総動員させて息を吐き、ゆっくりと言葉を紡いだ。

「ち、がいま、すっ、ことを、進めたら………、性、病……に、なっ、ちゃいま、すよ……っ」

悟浄の愛撫にとうとう物足なさすら感じ、完全に理性を奪われそうになる中で、何とか伝えきれた。

「せ、性病ぉっ?」

悟浄は思わず大きな素っ頓狂な声を上げ、一旦動きを中断させた。
あまり日常使う機会がないが、色欲が高い者なら嫌でも恐怖に鳥肌が立つ単語に、思わず悟浄は硬直している。
その隙に八戒は、火照りかけた身体を平常に戻す為、息を整えてから言った。

「こんな不衛生な状態で、洗浄もしていない粘膜にアレを突っ込むモノなら、高確率で性行為感染症になりますよ」
「−−じゃあ、ゴムちゃんつければイイじゃん」

八戒の落ち着いた話し方に、悟浄も少し平常が戻った様子だ。
ゴソゴソとポケットから避妊具を取り出し、これみよがしに見せつけてきた。
……まだヤる気のようだ。

「そういう問題ではありません。いいですか? 避妊具を付けた悟浄は良いかもしれませんが、潤滑剤すら満足にないこの状態での性行為は、間違いなく粘膜が傷つけます。しかもこんな後始末もロクに出来ない状態で粘膜に傷つき、薬も濡れずに満足に治療も出来ない……。そのまま放って傷からバイ菌が入り、性病に感性でもさせられたら……、どんな手段を使ってでも、僕は貴方に死ぬまで報復します」
「うっ……」

絶えず止まない言葉を使い、容赦なく悟浄を黙らせていく。

「それでもこのまま事を運びたければどうぞ、ご勝手に。でも、僕を性病に罹らせたいなら……、それなりの覚悟を持って挑んでくださいね」
「う、ううっ……」

饒舌に語り続け、尚且つ死ぬ気で脅しをかける。
すると先程の勢いは一気に後退し、悟浄は分かりやすく落胆の色を見せる。
その様子は八戒の肩に額に乗せ出し、うなだれていた。
視線をずらして見れば余りの落胆さに、いつも元気(?)にはねている触角が、可哀相に萎えているのが分かる。

(−−ちょっと、大袈裟に言い過ぎちゃいましたかね……)

いや、こちらは事実を言ったまでだ。
しかし、今の悟浄の意気消沈な様子は、まるで世界の終わりを告げられた時に見せる絶望的な姿に見えるのだ。
そこまで落ち込まれるとやはり、罪悪感がフツフツと湧いてくるのだ。
だから自分は悟浄に甘いのかもしれないと、分かっているのに。
分かっているのに、心配になってゆっくり悟浄を呼んだ。

「悟浄……?」
「……あ゙ー……、お前のニオイがするー……」

−−これほど心配して損した事は多分無いだろう……。
どんなニオイだと、思わず深く問い詰めたくなった。
出来れば手と同じ、清潔ではない状態で身体の臭いを嗅がれたくないのに。
思わず呆れを込めてため息を吐く。

「しつこく舐め回した上に、今度は身体の嗅ぐなんて、貴方は犬ですか」
「仕方ねぇだろ、シたかったんだしよ。俺の息子なんて臨戦モードだったんだぜ?」

聞いても知りたくもないのに、悟浄は八戒に見せるよう腰を突き出してみせた。

(全く、こんな時でも絶倫ですか)

悟浄の言動に本日何度目か分からないため息が、再度吐き出てしまった。

−−しかし、無理もない。
西域に着いてからまだ一度も、お互いに肌を合わせられずに今に至るのだから。
もう一年以上も旅を続けてきたが、これほど間を開けた禁欲状態(悟浄にしたら)が続く事は無かったのだ。
色欲が高く絶倫な悟浄には、数週間という時間はさぞ長い、しかも目の前にその対象がいるのに我慢しなければならないなんて、最早拷問に近い。

(……でも、我慢しているのは、悟浄だけじゃないんですけどね)

実は八戒も悟浄ほどではないが、己の身体にジワジワと蝕む渇望を、密かに堪えている。
場所が野外でなければ、悟浄の誘いに寧ろ積極的に受け入れられるぐらいに。
先程の悟浄が触れてきた愛撫、手に舌で這う感触、熱を擦り付けてきた微細な刺激。
どれも微細な刺激にも関わらず、背筋に甘く戦慄が駆け上がったのは事実だ。
もっと掘り起こすと、本当はあの無精髭で唇を重ねたり、肌に擽る感触が好きだ。
普段剃ってなだらかな肌とは違う、チクチクとした刺激が何とも言えない快感を生み出すからだ。
それと何より−−。
お気に入りはその無精髭が生えたまま、情熱的に目を細めてくる紅だ。
何処か子供っぽい笑み顔と、妖しく見せる男の色香は、いつも不意に心を奪われてしまう−−。

先程の悟浄の欲が移ってしまったのか、すっかり脳が過去の官能に染まりつつあった。

「……悟浄、顔を向けて下さい」

八戒は自らの唇を指先で触れ、悟浄を呼んだ。

「なに、……む、ぅっ」

悟浄が言葉を出そうとするが、口からはくぐもった声しか出なかった。
それは悟浄の唇に、先程八戒が自らの唇に触れた指先を重ねて塞いだからだ。
つまり、指先に互いの唇を重ねて接触する、ちょっとした間接キスだ。

「今は、これで我慢して下さいね」

今だに指先を悟浄のかさついた唇に触れたままで、ゆっくりと言葉を紡いだ。
一方、悟浄は予想外の事態に紅の双眸を見開かせ、呆然と八戒を見続けていた。
お互いこの体制でしばらく制止していると、漸く悟浄から動き出す。

「……嫌がってるクセに、煽んなよ……」

重なっている指先を離させた後、悟浄は手の甲に軽く唇を落とした。

「何も無いよりマシでしょう?」
「中途半端にご褒美を出す方が、よっっっぽどタチが悪い」
「あはは、贅沢ですねぇ」

当然、間接キスなどでは満足出来る訳が無い悟浄だが、先程の様な迫って色情を現わす様子はなかった。
不満タラタラだが、何とか色の欲求を留めてくれたようだ。
−−今の所は、だけれども……。

「絶対、泊まれる町か村を見付けて、宿があったらがっつりヤるからな」

予告というより、決定事項を口にした悟浄は、ようやく拘束を解いた。
そして悟浄は八戒を置いて先に前を歩きだし、八戒はその後ろをついて、冗談めいて口を開いた。

「着いた宿で部屋が四人部屋になったら、どうします?」
「なったら考える」
「わぁ、無計画ですねぇ」
「るせぇー」

ぶっきらぼうに言い放つ後ろ姿に向かって、不意に笑みが零れてしまったのだった。






ごちそーさまです。後払いでいいですか?
(今はコレで、お互い我慢しましょうね)







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我慢限界でがっつくエロ河童と、実は我慢していて相当キている八の話でした。←

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