『悟浄、空き缶を灰皿にしないで下さいって何回言ったら分かるんですか?』
『悟浄、僕前にも教えましたよね、ゴミの収拾日と分別。なのに、なんで明日出す燃えるゴミの中に、燃えないゴミが混じってるんです?』
『悟浄、もういい加減に冷蔵庫の中にあるモノ全部を突っ込んだラーメン作るの止めて下さいよ。味的にも経済的にもマズいですから』

−−−悟浄、悟浄、悟浄。
ああもうっ!うるせえよっ!!
お前は口煩いおふくろかってんだ!!




口うるさいおふくろ、もとい八戒と同居を始めてからもう二年になる。
月日の流れとは早いものだ。
出会った始めの頃の八戒は腸がはみ出るほどの死にかけで、柔らかく向ける微笑みからは何処が脆く、そして儚くも感じさせた。
同じ男でありながら、こうも違うのかと思わせるぐらいに、中性的に綺麗に男臭さを感じさせず、いつも痛みを隠すように笑う不思議な男だった。
出会って今に至るまで、美女に浮名を流してきた悟浄がまさかいくら綺麗でも、男に骨抜きにされるとは思ってもみなかった。
そして、まさかこの男に尻に引かれるとは、出会ったあの時に誰が予想出来ただろうか。

「聞いてるんですか悟浄?」
「ああ、聞いてる聞いてマストモ」
「そうですか、次やったらぶっ飛ばして全裸にひんむいて、野外に放置しますからね」

そして、また悟浄は八戒に常日頃から口酸っぱく言われ続けてきた空き缶を灰皿にした事に、注意という名の脅迫を聞いている最中であった。
八戒の涼しい笑顔の裏には、ドス黒い何かを感じるのは決して悟浄の気のせいではない。

八戒にすれば、何故毎回毎回同じ注意した事を直せないのかと辟易しているようだが、悟浄にしてみれば、何故そんな細かい事を毎回毎回言われなければならないのかと辟易している。

「お前、毎日毎日そんなおふくろか嫁イジめる姑みたいな細かい事言ってると、マジハゲんぞいつか」
「僕は大丈夫ですよ。悟浄みたいに不規則な生活はしていませんからね。不規則な生活習慣は脱毛の原因の一つですから」

……駄目だ。
口で敵う相手じゃない。
そんな事前から知っているのに、持ち前の負けず嫌いのせいかつい余計な口を叩いてしまう。
こっちが口出せば二倍、百倍にして返ってくるのに。

出会った一ヶ月間は、少し刺を感じさせながらも、まだ謙虚と可愛げがあったものだが、今はどうだ。
この可愛げのない態度。
しかも最近は口を開けば、こちらが口を出せない事を知っていて、小声と厭味をかましてくる非常にタチの悪い可愛げのなさ。
いくら綺麗な顔とはいえ、男に可愛げを求める時点で間違ってはいるのだが。

こちらに原因があるとはいえ、一方的に言われ続けられている悟浄は面白くもなく、居心地の悪さに内心舌打ちをして、外出を計ろうと煙草とライターをズボンのポケットにしまい、八戒から背を向ける。

「出掛けるんですか?」
「あぁ、ちょっと稼いでくるわ」

別に嘘はついてはいない。
日課であり唯一の稼ぎである賭博場へ赴き、その場にいる女を侍らしてストレス解消出来る上に、うるさい八戒がいるここから出られる口実にもなる。
まさに一石二鳥だ。

ドアを少し乱暴に開け、夕方になってオレンジ色の空を前に足を進めると、後ろに見送りにいる八戒はやはり何かを付け加えるように言う放つ。

「悟浄、この間みたいにたくさん飲んで帰ってこないで下さいね。もう介抱するのはごめんですよ」
「へーいへい、分かった分かった」
「それから、悟浄」
「ンだよ…っ、まだ何かあるのか?!」

出かける前にも言われ続ける事に、いい加減嫌になって声を荒たげた悟浄は、額に青筋が明かに浮き上がり、背を向けていた身体を顔だけ八戒に向ける。
すると先程の口煩い様子が嘘かのように、嫌味のない笑みを浮かべたまま八戒は言葉を続けた。

「いってらっしゃい、悟浄」
「………おう」

−−−まさかの不意打ちだった。
出掛ける最後まで口煩く言われ続けるかと思っていたので、最後には文句の一つは言ってやると思っていたのに、そう来るとは思ってもみなかった。
八戒がかけた言葉に妙な気恥ずかしさを感じる。
言われ慣れていない為か、違和感を拭えない。
しかし、決して嫌ではなかった。

「あれは卑怯だっつうの」

誰も聞いていない独り言をボソッと口にした。
ああ言われると、こちらは何も言えないではないか。
あんな言葉をかけられると、やはり可愛げさを感じてしまい、自然と口角が上がってしまう気の緩みきった顔をしてしまう辺り、かなり重症なところまできている。

さっきまで八戒に対して不満全快だったが、今日ぐらい八戒が作る夜食を一緒に食べられる時間までに帰ってもいいかもしれない。

毎日毎日健気に悟浄の帰りを待ちながら、不意にテーブルの上で眠っている事が多い八戒を思いながら、煙草をふかし、悟浄は賭博場へと足を運んだ。




愛すべきヤロー
(あーあ、俺ってマジで単純)









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初の58。
ギャグにしたかったのか、甘くしたかったのか書いてて分からなくなっちゃいました。


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