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 幸運なことに、この屋敷は広く、住人が一人増えたところで特に困ることもなかった。ただ、掃除はお世辞にも行き届いておらず、二人が使っている部屋以外はほこりが山のように積もっていた。イウに与えられた部屋は、ごく稀に訪れる客人用なのか比較的きれいだったが、それでもあまり使われていないことを証明するかのように、薄くほこりがかぶっていた。
 
 おそらく領主様とやらの趣味であろう家具一式は、クウェージアではまず見かけない黒い光沢があるもので、円を描く装飾が美しく、その輝きは多少くすぶってはいたが、それでもつい見とれてしまうような美を誇示し続けていた。物珍しさから、彼はわりに夜遅くまで家具の一つ一つを見つめていた。

 
 ちょうど昼に差し掛かった頃合にイウは目覚めた。ぼんやりと現実を受け入れてから、しばらくして起き上がり、そして唐突にやってきたかゆみに気付いて身体中を掻いた。寝ていたときは気にならなかったのだが、どうも毛布がいけなかったらしい。
 お世話になっている手前、文句も言えずにとりあえず窓を開け、彼は毛布を干すことにした。天気は一応晴れであったが、クウェージアと大して変わらない弱々しい太陽の光がカルテニを照らしている。相変わらずの単調な景色で、活気のありそうな時間帯にも関わらず村人もまばらである。
 彼のいる位置からちょうどこの屋敷の馬小屋が見えたが、馬はいなかった。二人はまた巡回に出ているようだ。
 
 窓辺に腰掛け、つまらない景色を眺めながら、彼は思考を巡らせた。
 一体なぜ、セウ=ハルフとデミングはこんな屋敷に住んでいるのだろうか。いくら使われていないからといって、一般人に別荘を開放するほど優しい貴族を彼は見たことがない。デミングは本当に考古学者なのだろうか。セウ=ハルフはモートの学術団をオルギアへ案内するのが本業だと言っていたが、誰に雇われているのだろう。この屋敷の持ち主である領主に二人は従えている、というのが一番自然な考え方だろうか。
 と、このように実のところ彼らに聞きたいことはたくさんあったのだが、昨日のやり取りを考えると、あまり深入りしない方がよさそうだとイウは結論づけた。あの二人が何者であれ、イウのなによりの目的はオルギアに行き古の女王アシディアに会うことなのだ。それに関係ないのなら、わざわざ関わる必要もない。それより自分の素性がばれぬよう、大人しくしているのが一番だ。
 面倒だな。
 彼は大きなため息をひとつ吐き、身体中を掻いた。


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