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「ラルレの空中庭園にそんな登場人物出てきたっけ?」

 とイウは聞いた。
 ラルレの空中庭園は世界的に有名な児童書である。アンジェルという不老の青年が生まれ育った理想郷、ラルレの空中庭園を捨てて世界中を旅する、といった話であり、子供向けであるのと同時にあらゆる国の歴史についての記述が詳しいことから、よく教科書代わりに使われていた。中産階級以上で、ある程度の教育を受けている者であれば、誰しも一度は読んだ事があるのではなかろうか。彼も昔に読んだ事があったのだが、残念ながら細かい内容はほとんど覚えていなかった。

「お前が読んだのはエクアフ語翻訳版だろう?あれは子供向けにかなり編集されてるんだよ。原作のダルテス語版はもっと長く、もっと生臭い人間関係が描かれているし、宗教の問題で書き換えられているところもある。俺が読んだのは原作がそのまま翻訳されたシクアス語版だが、その中に新造生物ゴルトバが出てくる」

「その新造生物ゴルトバはどんなことをするの?」

「ちょっと待ってろ」

 そう言うとセウ=ハルフは先ほどまでの面倒くさそうな顔から一転して、喜々とした様子で立ち上がり、小走りでどこかへ行ってしまった。

「セウ=ハルフはラルレの空中庭園マニアなんだよ。ああいう冒険物に憧れていて、いつまでも子供のままなんだ。いつも僕の考古学への熱狂ぶりをばかにするくせに、まったくひとのこと言えないと思わないか?」

 デミングはセル=ハルフが聞いているわけでもないのに、また声をひそめてイウの耳元で囁いた。なんだかんだと言い合いをしながらも、結局のところ彼らは仲が良いのだろう。そんな雰囲気がデミングの口調から伝わってきて、彼は少し羨ましく思った。

「そうだね」

 イウは苦笑して言った。


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