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その日はなんの変わりもない曇りの朝だった。一年中雲に覆われ、晴れる日が珍しいくらいのこの国の気候は無気力に拍車がかかりそうだ。
重い鉛色の空は低く、雲が落ちてきそうに見える。

今日は冷える。雪が降るのかもしれない。

イウは早朝の窓の外をなんとなく眺めながら、そんなことを思った。

クウェージアの宮廷の装飾にはほとんど白い色が使われていた。
宮廷の外に広がる白い髪の都市もそうであるが、基本的に白い髪の住む建物には白色が使われる。
純潔な白、それはいうまでもなく白い髪を象徴する色だが、それが限りない皮肉と思っているのは、もはや黒い髪だけではないだろう。
贅の限りを尽くし、細微まで抜かりのない凝った形態を維持し続ける白い宮廷には、人工的な華美はあれども温かみはない。

その冷たい宮廷でイウが快適な居場所を見つけるのは、途方もなく難しいことであったが、幸運にもグセルガの隣という誰も寄り付かない場所が空いていた。それが唯一、イウの居場所らしき居場所だった。

そして今、例により横には玉座に座る重い表情のグセルガがいる。それはいつも恐れている父の顔だ。

頬がこけ、やつれたその顔はまるで死にかけた廃人のようで、濁りきった灰色の瞳の中には威圧的で恐ろしい、ひとを寄り付かせない力があった。
それと同時に孤独感や絶望感、怒りや憎しみや恐怖がグセルガを取り巻いていて、そばにいるだけでひどい重圧がかかってくる。

イウはにわかに恐くなって、下を向いた。父は愛や敬慕の対象ではなく、畏怖と敬遠の対象そのものだった。

グセルガは、多くの裏切りと愛する妻を亡くしたことで重い人間不信に陥り、実の子であるイウですら完全には信用していなかった。
それが辺りに伝わるので、なおさら他人との隔たりは強くなっていった。

グセルガから気休めの信頼を得るためには、ただ彼の言うことをきく以外にない。
イウは自分の居場所を手放したくなかったので、日々積もってゆく不満などは、ごく小さなことであっても言わないようにしていた。
それがなおさらイウの脆弱さを強めているのだが、愚鈍なグセルガが気付くよしもない。
だが、表面上のきれいな付き合い方は疲労と意趣を招くに過ぎず、とても進み出て弁を交わす気には些かもなれない。ほとんどは沈黙である。


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