1/9


彼は初めて世界が広いことを知った。
クウェージアで過ごした十四年、彼は常に白い色の世界に住み、それが「世界」だと信じてきた。無論、クウェージアの小ささもその外に国があることも知っていたが、別次元のように思えて実感などわかなかった。
牢獄に似たクウェージアの生活は苦痛と狭さに満ちていたが、奇しくもついにそこから解き放たれた世間知らずの彼には外の世界はあまりに広すぎた。

それはまるで恐怖だった。ただ一人、知らない道を駆け抜けるというのは、彼にとって、いつ岸に辿り着くのか知れない大海をあてなく泳いでいるに等しく、途中で溺れないだけマシではあるが、もし町に辿り着けなければ野たれ死ぬ可能性もあるのだから、彼にしてみれば同じような試みであった。

幸い、彼はただ一人ではあったが独りではなかった。エメザレが乗り付けてきた馬がいた。もしこの馬がいなければ、彼はとっくに進むのを諦めてエメザレの横で死を待ったかもしれない。
しかし馬も長い旅に疲れ果て、馬とは思えぬ緩やかな速さで進みながら、苦しそうに息を荒げていた。水も餌も三日与えていない。いつ息絶えてもおかしくなかった。

そんな馬の背中の上で、馬の苦しさを察する余裕もなく彼はずっと泣いていた。

「オルギアってどこにあるの?」

もちろん馬は答えない。
弱々しい太陽の光は西へ傾き、静かな夜の気配が立ち込めてきている。

「ぼくたちは北に向かっているよね? スミジリアンにちゃんと着くよね?」

馬は鼻息を荒く噴出すばかりだった。


- 89 -


[*前] | [次#]
しおりを挟む

モドルTOP