4/9 「いや…いやだ。ぼくを置いて行かないで! もう独りは嫌だ! 一緒にいて、一緒にいてよ! お願いだからぼくを独りにしないでよ………」 確かなのはこの思いが報われないということだけ。目の前が濡れて、何がしたいのか、どうすればいいのか、もう前がよく見えない。 無様にもエメザレの胸に擦付いて、よだれを垂らして泣いて、そしてエメザレの腰についていた短剣を引き抜いた。 「王子……何をするんです!」 エメザレはそれに気付き身を引いた。エメザレが遠のいていくのが、とてつもなく気に食わなかった。 「もう王子じゃない! ぼくの国はもうない!」 「剣をしまってください!」 エメザレは叫びに近い声を上げた。 「うるさい、黙れ! 何もないんだぼくには。何もない。何も。どうしてぼくから遠ざかるんだ? お前まで、ぼくを嫌がるのか? お前のせいだ。お前がぼくを駄目にした!」 「私達の時代です。あなたはいらない」 一体お前は誰なんだ。 その瞳。虚無を携えた瞳は澄んでいない。ただ真っ黒な果てしない闇。 そしてあの日の鮮やかな映像が、イウの頭の中で何度も何度も繰り返し流れては、無慈悲にもその闇の中に次々と吸い込まれていく。 美しすぎたエメザレと、あまりにも光り輝きすぎていた想いが、今まさに天地を反して暗澹の底へと落ちていく。 だから、絶望と憎しみのあまりに。 [*前] | [次#] しおりを挟む モドルTOP |