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「…父上」

重苦しい空気をさらにひどくするような弱々しい声で、イウは夕食を前にして口を開いた。
父と呼ばれた偉大であるべき王は、その仮面のように固い表情のままで息子の方を見た。愛の欠片もない眼差しに息が詰まって、彼は口を開いたことを後悔するように、グセルガからテーブルに綺麗に並べられた夕食へと目をそらした。

出来うる限りの孤独を望むグセルガの意向で、食事時には一切、大臣も召使も部屋の中には入ってこない。
普通なら苦痛この上ないこの時も、誰にも聞かれたくない話をするのならば都合がいい。

「なんだね」

広く静かな部屋にグセルガの無機質な声が響く。

「黒い髪が……来るのですよね?」

「そうだ。時代の流れには逆らえぬ」

その答えは意外だった。めずらしく本音を口にしたのだろうか。グセルガの表情は厳しいものだった。

「どのような経歴の者なのですか……?」

「なぜそんなことを訊く。そうお前と関わることはなかろう」

グセルガは夕食の前菜を口に運びながら言った。

「それは…そうですが……」

「まぁいい。奴は軍人だ。前線で戦って何度となく功績を挙げている。黒い髪曰く英雄であると」

「軍人…ですか? 軍人に城の掃除を?」

心の中で小さな怒りを感じた。
戦場の前線で国のために命をかけて戦ってきた軍人に対して、その能力の量り方が掃除とはどうしたものか。
長けているであろう武術でも剣術でもなく、床を磨くことで黒い髪の今後を決めるなど。屈辱もいいところだ。

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