10/10 かつて彼は“良いひと”であったのかもしれない。そんな彼から安らぎを奪って、こうさせてしまったのは、まぎれもなく自分たちである。 そしてそれを横暴と呼んで嘲笑した白い髪を恥ずかしく思った。 オーウェがイウを憎むのは当たり前のことなのだ。それを逆恨みするのはばかばかしい。 「ごめんなさい」 朝食を届けに来たオーウェにイウは言った。 「なにが」 オーウェはいつもの、少し乱暴な声できいた。 「ぼくたちが、あなたにしたことだ」 「もういい。時代は変わったんだ」 そして、初めて彼は笑った。どこか遠い目をしてオーウェは優しい顔をした。白い髪を許したわけではないだろう。それでも、イウの言葉でほんの少しだけ彼は救われたように思う。そうとだけ言うと、オーウェは去っていった。 そしてわかった。黒い髪の国に白い髪は必要ないということを。 それを思い知った。 [*前] | [次#] しおりを挟む モドルTOP |