5/10


「四年間で何があったの?」

「元帥様の話か?それは俺もわからない。でも四年前、元帥様が宮廷に勤めることが決まった時、黒い髪はみんな過剰なほど彼に期待した。
しかし、散々持ち上げておいて、解雇されると手のひらを返したように冷たくあしらった。
確か、軍事教育所からも不名誉除隊させられたとか。それで彼の存在は忘れられてしまったんだ。一説ではひどい拷問を受けたとか、それが原因で死んだとか、色々と噂はあったが半年前に突然にまた表舞台に現れた。

俺が知っているのはそのくらいだ。なにせ革命が起きる前までは、俺はただの農民だったんだから」

解雇されてからの、エメザレの消息などは一切、イウの耳に入ってこなかった。グセルガはエメザレを警戒していたから、おそらく彼の行動を見張っていただろうが、当然のことながら、イウにその情報を与えたりはしなかった。
イウの知らない空白の四年という時間は、あまりにも長い気がした。不名誉除隊。あの身体では仕方なかっただろう。どう考えても、もう軍人としての勤めは果たせなかった。再び歩くことすら無理であったように思う。
確かに右目は潰れていた。顔も身体も傷だらけだった。それはとても鮮明な記憶だ。四年の月日が流れたとしても、その傷跡は残るはずなのだ。

しかし、三十五日前に現れたエメザレにその傷跡はどこにもなかった。常識で言うならば、それは不可思議で有り得ない話しだ。
もしイウが先ほどの奇跡の世界を体験していなかったならば、この話を信じたりはしなかっただろう。
半年前、エメザレに何がおこったのか。
奇跡。その言葉しか見当たらない。


その時、突然にドアが開いた。

- 66 -


[*前] | [次#]
しおりを挟む

モドルTOP