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駐屯地というのは、革命前は大貴族の屋敷であったようだ。

アスヴィットが言うには、首都は遷都せずにおきたいというエメザレの意向で、白い髪の巨大都市は特に壊されることもなくそのまま使われるのだそうだ。首都は都市ごと黒い髪に明け渡され、アスヴィットの所属している整備部隊は首都の早期復興を目指している。

その屋敷の一角だけ、アスヴィットと同じくらいの年若い男たちで賑わっていた。しかし白い髪のイウを見ると途端に静まり返り、好奇や嫌悪の眼差しを向けた。

「大丈夫だから、行こう」

アスヴィットは笑うとイウの手を引っ張った。



「飯でも食って元気出せよ」

アスヴィットはパンをたくさん詰めた大きな籠をイウの前に置いた。しかしそのパンはお世辞にも美味しそうには見えない。

「いらない」

それに何かを食べたい気分じゃない。アスヴィットの部屋は広く、豪奢な内装だったが部屋の中にはテーブルと三脚の椅子、それとベッド代わりらしい綿の飛び出たソファーしかない。
椅子も座っているだけで不安になるような音を出して鳴いている。

「アスヴィットはエメザレと会った事があるの?」

それでも無理に勧めてくるパンを仕方なしに受け取りながらイウは聞いた。

「遠巻きで見たことがあるだけだよ。結構細い感じのひとだったな」

アスヴィットはいかにも硬そうなパンにかじりついた。

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