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しかし、まさか宮廷の中に廟への入口があったとは。

「誰か!」

そう驚きに浸っている暇もなく、彼は立ち上がって走り出した。
納屋を飛び出し本城へと向かったが、なぜか人気が全くない。宮廷に1000人はいるであろう召使の姿も、大臣の姿も。誰も居ない。

「誰か!誰か!誰か!」

叫んだが、白い宮廷に虚しく響くだけだった。城の部屋は荒らされた様子はなかったが、家具が一式なくなっていて、まるで全員どこかに引っ越してしまったかのようだ。
かつての輝かしい宮廷は廃墟のように静まり返っていた。息を切らして走り回るが、この状況を説明してくれそうなものはないもない。また恐怖がイウを包み込んだ。

ここはどこだ。違う世界なのか。
ぼくはこの世界で一人なのか。

「誰か!!いるなら答えてよ!」

皮肉にもそこは自分が刺された玉座の間だった。グセルガが座っていた玉座は持ち出されたのか既になく、玉座へ続いていた階段が、今は無意味にそこにある。床には血痕らしき茶色い染みが、掃除されることなく残っていた。

ぼくの血。
ぼくはなんなんだ。ぼくは……亡霊?

絶望しながら、玉座の間に連なる窓の一つに手を置いた。
外には長きにわたり黒い髪を拒絶し続けた、冷徹な巨大都市が広がっている。クウェージアにおいて最も先進した技術と莫大な費用をかけて建設され、白い髪の酷薄な支配を証明するには充分なこの都市は、本来ならば活気にあふれているはずだった。

だが誰もいない。なにも動いていない。唯一耳に届くものは、冷たく無慈悲な風の音のみ。

「誰かいないのか!!」

窓の外に向かって翻った声で叫んだ。

「誰だ」

その時、後ろから男の声がした。


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