7/7 しかし、まさか宮廷の中に廟への入口があったとは。 「誰か!」 そう驚きに浸っている暇もなく、彼は立ち上がって走り出した。 納屋を飛び出し本城へと向かったが、なぜか人気が全くない。宮廷に1000人はいるであろう召使の姿も、大臣の姿も。誰も居ない。 「誰か!誰か!誰か!」 叫んだが、白い宮廷に虚しく響くだけだった。城の部屋は荒らされた様子はなかったが、家具が一式なくなっていて、まるで全員どこかに引っ越してしまったかのようだ。 かつての輝かしい宮廷は廃墟のように静まり返っていた。息を切らして走り回るが、この状況を説明してくれそうなものはないもない。また恐怖がイウを包み込んだ。 ここはどこだ。違う世界なのか。 ぼくはこの世界で一人なのか。 「誰か!!いるなら答えてよ!」 皮肉にもそこは自分が刺された玉座の間だった。グセルガが座っていた玉座は持ち出されたのか既になく、玉座へ続いていた階段が、今は無意味にそこにある。床には血痕らしき茶色い染みが、掃除されることなく残っていた。 ぼくの血。 ぼくはなんなんだ。ぼくは……亡霊? 絶望しながら、玉座の間に連なる窓の一つに手を置いた。 外には長きにわたり黒い髪を拒絶し続けた、冷徹な巨大都市が広がっている。クウェージアにおいて最も先進した技術と莫大な費用をかけて建設され、白い髪の酷薄な支配を証明するには充分なこの都市は、本来ならば活気にあふれているはずだった。 だが誰もいない。なにも動いていない。唯一耳に届くものは、冷たく無慈悲な風の音のみ。 「誰かいないのか!!」 窓の外に向かって翻った声で叫んだ。 「誰だ」 その時、後ろから男の声がした。 [*前] | [次#] しおりを挟む モドルTOP |