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「アンヴァルクとは神の使者、もしくは世界機構の一部。半永久的に存在する機能。
しかし、一万年以上前にイースは消滅した。それにより、この空間は杯ごとイースから独立したのだ」

「どうしてぼくはここに来たの? エメザレは? ここに来ていないの?」

自分でも思考がどこかずれていることがわかる。だが、この変な空気の世界ではそれを直す術がない。少しでも気を抜こうものなら、意識は世界に包み込まれて、永久に目覚めることはないだろう。余計なことを考える余裕はない。
もはや、美しい鳥のさえずりは、頭に突き刺さる雑音にしか聞こえない。温かそうな光は瞬きすぎて、視界を奪う邪魔な存在だ。

「通常、君達は第一世界に置かれる住基盤から世界機構を通して、基本世界に存在している。
しかし、君は遺伝子の上書きの最中に機構へのアクセスが切断されたため、住基盤に重大なエラーが発生した。
この空間はエラーの発生した住基盤を、積極的に保護するよう設定されている。
今現在この世界に、君以外の生命体は存在していない」

「もう少しわかりやすく説明してくれない? 全くわけがわからないよ。つまりぼくは死んだの?」

苛立って、強い口調でイウはきいた。
息苦しさは徐々に増してゆき、心臓の鼓動はうるさいほどに高鳴っている。

「君達の感覚でいうとそういうことだ。
第一世界から機構への接続が切断されたと同時に、基本世界では「死ぬ」ということになる。
そして住基盤とは、つまり君達の遺伝子や、記憶、人格の情報を入れておく器のことで、君達がいうところの魂とほとんど同じ概念だ。ただ、住基盤は君達の住む基本世界ではなく、第一世界というところに置かれている。
私は君の死んだ時の状況を完全に把握していないから、言い切ることはできないが、おそらく新造生物との契約で、遺伝子の書き換えをしている最中に君が死んでしまったことで、書き換えが中断され、非常に不安定な状態で存在したためエラーが発生したと思われる」

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