1/6 どこだ。ここは。 こんなに青い空を見たことがない。こんなに明るいのに太陽がない。こんなにも穏やかなのに息苦しい。辺り一面に色とりどりの花が咲き、たくさんの蝶が飛び、鳥の美しい鳴き声が耳に響いてくる。それなのに、肌は死んだように何も感じない。時は緩やかに進んでいるようでも、猛烈な早さで自分に向かってくるのがわかる。 この世界は自分を排除したがっているようだった。体が重く、立っているのがやっとだ。さっきから止まらない耳鳴りのような高い音が、頭に響いて吐き気を催している。 ふと、そこに誰かがいるような気配がした。 「誰?」 重い頭を上げたが、そこには何も見えなかった。 「私はある意識の遺産。そして、この世界の保護者にして監視者、または象徴であり同時に聖杯」 低音と高音を重ねたような不思議な声で、なぜか安らぎを感じさせる声でもあった。イウは息苦しさを一瞬忘れて声に聞き入った。 そして、それはあきらかにそこにいるのだが、やはり姿は見えない。だが、イウはそれが特に気にならなかった。それがさも当然のような感覚だったからだ。 「ここはどこ? これはぼくの見ている夢なの?」 「夢ではないが、限りなく夢に近い世界だ。ここは杯に付属されている個人世界。 君達の理想郷として作成された世界だ。創造主はアンヴァルク=イース」 「アンヴァルク?」 声の言っていることは全く意味がわからなかったが、アンヴァルクは知っていた。 [*前] | [次#] しおりを挟む モドルTOP |