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「お前は……誰だ」
イウは絶望してきいた。
確かにそれはエメザレの顔だった。だが、何かが違って見えた。何が、と言われれば答えようもないが、とにかくそれはエメザレではなかった。
限りなくエメザレに似た何か。

「私はエメザレ」

声は同じ。でもエメザレではない。

「違……う…」

胸が痛すぎて声が出ない。苦しい。息ができない。なぜだろう。

酷い不快感に気づいて自分の胸を見たイウは、ようやくその痛みの理由がわかった。当然の痛みだ。イウの胸には深く剣が刺さっていたのだから。
その光景を目にして頭の中は完全に混乱し、それが夢であることを願った。ますます痛みは酷くなって辺りが霞んでゆく。世界が歪んで感覚が薄れていく。怖くなって、わけのわからないままに、イウはエメザレにしがみついた。
その力は自分でも驚くほどに凄まじいものだった。もはや立っていられなくなって、床に倒れこむその時も、エメザレから手を離さなかった。二人で一緒に床に崩れ、起き上がろうともがくエメザレをイウは離すまいと髪を掴んだ。

そしてもう片方の手は偶然にそこにあった右目に爪を立てていた。
なにか不思議な感覚だった。なにかに操られているように、無意識のうちにイウは、目の中に指を突っ込んで眼球を抉り出そうとしていた。
エメザレはイウの手を引き離そうとしたが、死に際の深い呪いのような力に勝つことができない。
ついに眼球は傷付いて出血し、その血は流れ落ちて、イウの頬をぬらした。

「ああぁっ! 血が! ゴルトバの血が!」

エメザレは右目からの出血に気付くと、悲痛な声でそう叫んでイウから飛びのいた。

「う、あぁ……ぎぃゃぁぁぁぁああ!」

それとほぼ同時に、イウの絶叫が部屋に響き渡った。
熱い。
血が炎よりも熱い。血がおかしい。
まるで生きてでもいるかのように、それは毛穴をこじ開けて、無理やり皮膚の中に侵入しようとする。
痛い。
焼かれながら皮膚が剥がされるような感覚だ。
どうにかそれを追い出そうと体中をかきむしるが、それは体内で猛烈に走り巡っている
恐ろしい。
何かが変形してしまいそうだ。
でも、そんなことはもうどうでもいい。

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