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「エメザレが国立軍事教育所で育ったのはご存知ですね」

「知ってる」

「あの施設は孤児が入れられるところです。全ての権利は国にゆだねられ、世間とは完全に隔離されている。そして二十五歳になるまでは基本的にあの施設からは出られない。あの時エメザレは二十三歳。外の世界を知らなかった」

クウェージアにおいて孤児は国の所有物であり、女は外国に売りに出され、男は国立軍事教育で訓練を受け兵士となる。終身兵役の孤児は一生、国の監視下に置かれるが二十五を過ぎれば家庭を持ってもよいことになっており、教育所を離れて指定された地域に住むことが許されていた。

「だからなに?」

イウは苛立ってきいた。

「つまり、彼の思想は極端に偏っていた。彼が正常だったとは言い切れないし、物事を常識的に判断できたとも思えない。その証拠のひとつとして、彼は同性と肉体関係を結ぶことに不自然さを感じてはいなかったようですし。まぁ、二十三年間男だけの世界で生活してきて、そういうことが一度も起こらないほうがおかしいですがね。どちらにせよ、そんな男のいう正義など信じるに値しない」

「でも、そうだとは言い切れない。エメザレは違うかもしれない! エメザレの正しさは、変わりはないんだ。わかりもしないのに決め付けるな!」

「わかりもしない、ね……。どうでしょう」

ジヴェーダは言葉をにごらせながら冷笑した。

「どうって? どういうこと? 言いたいことがあるならはっきり言え」

「世間知らずの王子様。あなたはいつだって現実から顔を背けている。自分の信じたいものしか信じず、ききたいことだけしかきかない。私は証拠を提示して教えて差し上げたではないですか。だからそのままの意味です。いうなれば一種の、体験に対しての私の意見と感想のようなものですが」

やっと言っていることがわかった。
ジヴェーダは、エメザレを屈辱したと、遠まわしに言っているのだ。


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