8/8 「いいんです。片目くらい。足でも手でも、何でもいいんです。それで、少しでも望みが繋がるなら、そんなもの少しも惜しくないんです。 私には我慢することくらいしか、できることがないから……だから、私は今まで、今までずっと……」 エメザレは声を殺して泣いていた。涙を見せるのが恥ずかしいみたいで、骨の浮いてみえる不自由な手で顔を覆って、すすり泣いた。 「すみません。あなたに、こんな姿を見せたくなかったのに……」 そう言って彼はイウに背を向けようとしたが、思うように動けなかったらしく、少し体を浮かせただけであきらめた。 「あまり体を動かしちゃ駄目だよ。ゆっくり休んで。ぼく、そばにいるから」 「いえ、そんな――」 「いいから、おやすみ。ぼくはお前のそばに居たいんだ」 唯一自由のきく、それでも傷だらけのエメザレの右手を、優しくなでるようにして握った。 「王子。あなたに一つお願いがございます」 目を閉じる前に擦れる声でエメザレが言った。その声は何か祈りのようだった。 「なんだ?」 「どうか、黒い髪を救ってください。どうか、戦争が起こらぬように。誰も苦しまないように。あなたが王になった時は、必ず良い国にすると、私と約束してください。 そして自分自身の意思でものごとを判断することを、けして忘れないでください」 エメザレは小さな、やっと振り絞った声で言った。 「わかった。絶対に守るよ。良い国にする。だからエメザレ、ぼくが王になった時はきっと、ぼくのそばにいてくれ。ぼくが迷ったり、何をすればいいかわからなくなったりした時は、お前が助言をするんだ。そうすれば、もっと良い国になるよ。そうでしょう?」 また、全てが間違っている場所でイウは生きなくてはならない。しかし、エメザレの正しさだけは消えないだろう。エメザレの言葉の一つ一つが、彼の心をつくる基盤となって、力強く支えていた。 「はい。王子。約束いたします」 優しげな顔には必死さと希望がみなぎっていて、でも自身は時代においていかれることを、誰よりも悟っていて、だからとても清々しいようで、それでもどこか憂愁が漂っていて、それを全部浮かべて彼は微笑んでいた。 そしてエメザレは安心したように静かに目をつぶった。 [*前] | [次#] しおりを挟む モドルTOP |