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「いいんです。片目くらい。足でも手でも、何でもいいんです。それで、少しでも望みが繋がるなら、そんなもの少しも惜しくないんです。
私には我慢することくらいしか、できることがないから……だから、私は今まで、今までずっと……」

エメザレは声を殺して泣いていた。涙を見せるのが恥ずかしいみたいで、骨の浮いてみえる不自由な手で顔を覆って、すすり泣いた。

「すみません。あなたに、こんな姿を見せたくなかったのに……」

そう言って彼はイウに背を向けようとしたが、思うように動けなかったらしく、少し体を浮かせただけであきらめた。

「あまり体を動かしちゃ駄目だよ。ゆっくり休んで。ぼく、そばにいるから」

「いえ、そんな――」

「いいから、おやすみ。ぼくはお前のそばに居たいんだ」

唯一自由のきく、それでも傷だらけのエメザレの右手を、優しくなでるようにして握った。

「王子。あなたに一つお願いがございます」

目を閉じる前に擦れる声でエメザレが言った。その声は何か祈りのようだった。

「なんだ?」

「どうか、黒い髪を救ってください。どうか、戦争が起こらぬように。誰も苦しまないように。あなたが王になった時は、必ず良い国にすると、私と約束してください。
そして自分自身の意思でものごとを判断することを、けして忘れないでください」

エメザレは小さな、やっと振り絞った声で言った。

「わかった。絶対に守るよ。良い国にする。だからエメザレ、ぼくが王になった時はきっと、ぼくのそばにいてくれ。ぼくが迷ったり、何をすればいいかわからなくなったりした時は、お前が助言をするんだ。そうすれば、もっと良い国になるよ。そうでしょう?」

また、全てが間違っている場所でイウは生きなくてはならない。しかし、エメザレの正しさだけは消えないだろう。エメザレの言葉の一つ一つが、彼の心をつくる基盤となって、力強く支えていた。

「はい。王子。約束いたします」

優しげな顔には必死さと希望がみなぎっていて、でも自身は時代においていかれることを、誰よりも悟っていて、だからとても清々しいようで、それでもどこか憂愁が漂っていて、それを全部浮かべて彼は微笑んでいた。
そしてエメザレは安心したように静かに目をつぶった。

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