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「ぼくの言うことを誰も聞いてくれないんだ……。だから…手当てのしかたがわからなくて……。ごめんなさい、ごめんなさい……ぼく、何もできなくて…ぼくのせいなのに……」

自分の無力さが歯がゆくて、自分が憎くて、後から後から涙が零れ落ちた。泣いたところで、どうにもならないことくらいわかっても、涙が止まらなかった。

「なにも、王子が謝ることなんてありませんよ」

しかし、エメザレの声は擦れていて、耳をそばだてなければ聞き取れないくらいに弱々しかった。

「私が陛下に生意気な口をきいたせいですから。それに、あなたは私をここまで運んでくださった。重かったでしょう?」

イウは頭を横にふった。エメザレが重いはずがない。十歳のひ弱な少年が運べるほどだ。痩せきったエメザレの身体は、生きているのが不思議なくらいに軽かった。
そんなエメザレを引きずって、イウは自分のベッドに彼を寝かせたが、一国の王子が怪我の手当ての仕方を知っているはずがない。どんどん紅色に染まっていくシーツを前に、彼は泣きじゃくりながら、吹き出す血を押さえるので精一杯だった。

「ぼくのせいで……許してくれ。ぼくらを許して。こんなことになるなんて……。ただ、ぼくは、父上があんまりにもお前をばかにするから…悔しくなって。ごめんなさい……」

「平気ですから。心配しないでください。私は見た目より頑丈にできていますから。すぐに治りますよ」

エメザレの明るい声が、余計イウの心を締め付けた。

「でも……でも、右目が潰れてしまったよ…。痛かったでしょう? もう、治らないよね。ごめん……許せるはずないよね。ごめんね」

何度も踏みつけられた右側の顔は変色し、ひどい箇所は抉れて赤い肉が見えていた。
殺すつもりだったのだろう。傷は深く、骨も幾本か折れている。特に足はひどく折れ曲がっていて、もう軍人としての役目が果たせないのは明らかだった。


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