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「ジヴェーダ。それを痛めつけろ。手加減するな」

グセルガは、部屋の隅で薄ら笑いを浮かべて見物していたジヴェーダに言った。

「ここで、でございますか」

遠慮気味に彼はきいた。

「そうだ。我が息子の目の前で、わたしに逆らうものはどうなるか教育してやらねばならない。
みておくがいい。我が息子よ。二度と見られぬような、惨い光景をその目に焼きつかせておけ」

そう言うと、泣きながら震えているイウの髪を引っつかんで、無理やり椅子に座らせ、それを見せ付けた。
白い大理石の床が、次第に赤く染まってゆく。皮膚という皮膚が傷付けられ、全身から血が吹き出して、血生臭い匂いが部屋中に広がった。ジヴェーダの鞭を打つ音や、殴る音がイウの頭の中で響き広がる。

でもエメザレは、ただ黙ってどこか前を見つめていた。きっと彼は死を見つめているのだ。静かに。彼はその時を待っているのだ。

それがイウには信じられなかった。自分は玉座に座って見ているだけで、止めることもできずに、頭を抱えて震えながら泣いているのに。自分にはけして受け止められない、酷い現実をエメザレは何の抵抗もなく受け止めている。

どうしてこんなに無力なんだろう。
ごめんなさい。ぼくが悪いんだ。
何かしなくては。何か――

しかし、そう思うだけで、結局イウは何もできないままに、エメザレは少しも動かなくなった。鮮血の絨緞に横たわるエメザレを前にグセルガはこう言い放った。

「白い宮廷に黒い無能者はいらない」


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