6/8 「ジヴェーダ。それを痛めつけろ。手加減するな」 グセルガは、部屋の隅で薄ら笑いを浮かべて見物していたジヴェーダに言った。 「ここで、でございますか」 遠慮気味に彼はきいた。 「そうだ。我が息子の目の前で、わたしに逆らうものはどうなるか教育してやらねばならない。 みておくがいい。我が息子よ。二度と見られぬような、惨い光景をその目に焼きつかせておけ」 そう言うと、泣きながら震えているイウの髪を引っつかんで、無理やり椅子に座らせ、それを見せ付けた。 白い大理石の床が、次第に赤く染まってゆく。皮膚という皮膚が傷付けられ、全身から血が吹き出して、血生臭い匂いが部屋中に広がった。ジヴェーダの鞭を打つ音や、殴る音がイウの頭の中で響き広がる。 でもエメザレは、ただ黙ってどこか前を見つめていた。きっと彼は死を見つめているのだ。静かに。彼はその時を待っているのだ。 それがイウには信じられなかった。自分は玉座に座って見ているだけで、止めることもできずに、頭を抱えて震えながら泣いているのに。自分にはけして受け止められない、酷い現実をエメザレは何の抵抗もなく受け止めている。 どうしてこんなに無力なんだろう。 ごめんなさい。ぼくが悪いんだ。 何かしなくては。何か―― しかし、そう思うだけで、結局イウは何もできないままに、エメザレは少しも動かなくなった。鮮血の絨緞に横たわるエメザレを前にグセルガはこう言い放った。 「白い宮廷に黒い無能者はいらない」 [*前] | [次#] しおりを挟む モドルTOP |