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「私にはね、黒い髪の希望がかかっているんです。みんな、私に期待しています。平和解決の希望をつないでいるのは、私だけだから。
私が陛下に認められて、陛下が私たちを積極的に平等に扱うことを約束してくれさえすれば、もしかしたら、誰一人死なず、戦争は起こらないかもしれない」

「そんなの夢物語だよ!」

悲しくなってイウは叫んだ。
しかしエメザレはそんなことくらいわかっているのだろう。それが余計に歯がゆくて、悔しくて仕方がなかった。

「そうですね。そうかもしれません。でも私はその可能性に全てをかけているのです。だから、自分からやめるわけにはいきません。
私は自分に微塵の価値もあるとは思っていませんが、そんな私の微々たる犠牲で国を変えることができるなら、それは喜ぶべきことのように思います。素晴らしいことです。とても誇りに思っています」

どうしようもないくらいに頑な声だ。エメザレの決意が変わることはけしてないのだろう。改めてイウは自分の無力さに失望した。

「死んでしまうかもしれないんだよ? どうして何も恐れていないの? どうして?」

やりきれない思いが溢れ出して、いつの間にかイウは泣いていた。

「あなたもいつか、死など恐れないくらいに全てを信じ、大きな夢を見ることがあるでしょう。陛下の厳格な思想の下で、消えることのなかったその意思の強さを持っているのならば、私のしたことの意味をわかってくださると信じています」

そう言って微笑んだエメザレの瞳には、諦念に似たたくさんの希望が埋め込まれていた。
しっかりとした口調で言われたその言葉は、少年の胸に深く深く突き刺さり激烈な印象を与えた。イウの求めていた純粋な正義と「正しい」正論が、そのなかにあったからだ。形式じみた称賛や置物のような綺麗ごとではなく、確固たる意思として存在するそれは、いまだかつてないくらいに強く心に響いた。
イウの心はエメザレへの憧れで一杯になった。

これほどまでに正しいひとはいただろうか。否、全てのものは間違っていた。
そう、答えは限りなく簡単なことだったのだ。
グセルガの「間違い」はイウのなかでその時、完全に証明された。


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