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「私はここへ来て良かった。王子に会えて。その言葉を聞けて。感謝致します。ありがとう。ありがとうございます。あなたは私の希望です」

「そんな……」

そんなふうに言ってくれたのはエメザレだけだった。
いつだって、否定されてそれに耐えてきた。グセルガの作った型のなかに入って、気持ちを変形させてきた。誰も自分の存在を認めてはくれなかった。頼りにされたことも感謝されたこともなく、ただ目を開けて息をしているだけだった。
そんなイウを今エメザレは希望と呼んだのだ。
心から嬉しく思った。
劣等感の塊であった少年の凍りついた心を暖めるには、その言葉は充分すぎた。

だから、エメザレには死んでほしくない。できれば宮廷でずっと働いてほしいが、それが彼を傷つけるなら、その望みは諦めていい。それよりも、幸せな場所で彼には生きてもらいたい。
イウはしゃがんで床に座り込んでいるエメザレの腕を掴んだ。

「城を去るんだ。エメザレ。このままだと死んでしまうよ。確かにこの国は不条理だし、お前が納得できないのはわかるけど、ぼくが絶対変えてみせるから。
だから意地を張るのはもうやめて、父上に仕事をやめさせてほしいと頼むんだ」

願いを込めてイウは言った。

「無理ですよ」

「どうして。そんな体でどうするつもり? そこまでして、一体何がしたいんだ?」

エメザレの答えがにわかには信じられなくて、イウは少し強くきいた。


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