8/9 「私はここへ来て良かった。王子に会えて。その言葉を聞けて。感謝致します。ありがとう。ありがとうございます。あなたは私の希望です」 「そんな……」 そんなふうに言ってくれたのはエメザレだけだった。 いつだって、否定されてそれに耐えてきた。グセルガの作った型のなかに入って、気持ちを変形させてきた。誰も自分の存在を認めてはくれなかった。頼りにされたことも感謝されたこともなく、ただ目を開けて息をしているだけだった。 そんなイウを今エメザレは希望と呼んだのだ。 心から嬉しく思った。 劣等感の塊であった少年の凍りついた心を暖めるには、その言葉は充分すぎた。 だから、エメザレには死んでほしくない。できれば宮廷でずっと働いてほしいが、それが彼を傷つけるなら、その望みは諦めていい。それよりも、幸せな場所で彼には生きてもらいたい。 イウはしゃがんで床に座り込んでいるエメザレの腕を掴んだ。 「城を去るんだ。エメザレ。このままだと死んでしまうよ。確かにこの国は不条理だし、お前が納得できないのはわかるけど、ぼくが絶対変えてみせるから。 だから意地を張るのはもうやめて、父上に仕事をやめさせてほしいと頼むんだ」 願いを込めてイウは言った。 「無理ですよ」 「どうして。そんな体でどうするつもり? そこまでして、一体何がしたいんだ?」 エメザレの答えがにわかには信じられなくて、イウは少し強くきいた。 [*前] | [次#] しおりを挟む モドルTOP |