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「イウ王子。私をかばうと、罰を受けますよ。あまり私と関わらないほうが……」

エメザレは背に回されたイウの腕を、優しく振りほどきながら言った。
さっきの転倒でやはり強く頭を打ったのか、彼は軽い脳震盪を起こしたようで、ふらふらしていて一人では立ち上がれそうになかった。

「罰なんてどうでもいい。それより手当てをしないと」

そういうと、エメザレは複雑な表情をして、すまなさそうに微笑んだ。
近くで見るエメザレの顔は傷だらけで、固まりかけた血液がいたるところに、こびりついていた。
床に座り込んでいるエメザレにイウは手を差し伸べたが、エメザレはそれをさりげない動作でよけ、壁に手をついて何とか立ちあがった。だがすぐに、眩暈でもしたのか座り込んでしまった。

「大丈夫?」

「なんでもありませんから」

心配になってエメザレの顔をのぞくと、彼は必死にそう言った。

「どこがなんでもないんだよ。自分の顔を見てみなよ。こんなになって……」

けれども、エメザレの瞳はいまだに真っ直ぐだった。そして見据える先には漠然とした死があった。しかし、彼はそれを恐れているようには見えない。このまま死んでしまっても構わないというように諦観を抱えている。

「王子、なぜここにいらしたのですか?」

なんだか少し悲しそうな声だった。


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