6/8


「高峰、ぼくはゴルトバにアシディアに会えと言われたんだ。アシディアに会うためにオルギアへ行けと。手掛かりはそれしかない。なにかわかることはある?」

「アシディア、ですか。彼女に関することの文献は、ほとんど残っていません。古い時代のことだから、ということもありますが、意図して誰かがアシディアに関することを歴史から抹消したようです。そんな形跡があるのです。

今、我々がわかるのはアシディアの神話的、伝説的な内容でしかありませんし、何度もオルギアは我々が探査しましたが、アシディアの名すら発見はできませんでした。

しかし、どうやらイウさんと我々の目的は同じようですね。我々は2598年前に起こったオルギアの消失事件で、オルギアは別次元に移行したと考え、そこでアシディアもオルギアの住民もまだ生きていると考えます。そして別次元への入り口がオルギアにあるとして調べているのです」

「だけど、まだ見つかっていないというわけか。でもゴルトバはオルギアに行けと言った。必ず、オルギアに手掛かりはあると思うんだ」

全ての秘密を暴露してしまったせいか、彼は一気に気持ちが楽になって、高峰に妙な親近感を覚えていることに気付いた。高峰に会ったのは間違いではなかった。高峰の存在は心強く、進むべき道が拓けたように思えた。

「私もイウさんの話を聞いて確信しました。この世界には法則に支配的な勢力があり、複数の別次元が存在する。そして別次元は支配的勢力の根幹にへと繋がっているでしょう。イウさんと共に行動すれば、それが見えてくる気がします」

「ぼくもだ。高嶺と一緒なら探せ出せそうな気がするよ。話せてよかった」

 彼は無駄だと知りつつも高峰に笑いかけた。

「イウさん。もしオルギアでなにもわからなかったら、行く場所に困りませんか? 強制はしませんが、そうであるならば我々と本国に行きませんか」

 やはり高峰は微笑みもしなかったが、イウの顔をじっと覗き込んできた。間近で見る高峰の肌色は深い夜のように美しかった。

「でもモートの国に行ったら二度と外へ出られないんだよね」

「基本的にはそうですが、オルギア探査に同行は認められると思います。とにかくこれを渡しておきましょう。剽軽からも渡しておいてほしいと言われましたから。我々と来るかどうかはゆっくり考えればいいです」

 と言って、高峰はコートの裏ポケットから黒いカードを取り出した。まるで磨かれた黒い大理石のように凹凸がなく、テカテカと輝いている。その輝きはモートたちが着ているコートの素材に似ている気がした。

「わかった。ありがとう」

 差し出されたカード受け取ってみると、信じられないほどに軽かった。カードの素材は布でもなく石でもない。一体なにでできているんだろう、と思いながら彼はそれをポケットにしまい込んだ。




「内緒話か……つれないなぁ。話は終わったの」

 背後からセウ=ハルフの声がした。セウ=ハルフは振り返るといつもの屈託のない様子でこちらを見ている。デミングはそのとなりで優雅に昼寝を決め込んでいた。なんだか日常に戻ったような気分で、彼は緊張の糸がほどけたのがわかった。


- 137 -


[*前] | [次#]
しおりを挟む

モドルTOP