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「世界法則に支配的な勢力か。それを普通に考えるとするならば、最高位にいるのは神、ということなのかな。でもイース代理もゴルトバも、ぼくたちが知っているような神のイメージからはかけ離れていた。事務的というか、形式的というか……。しかし、どうして高峰たちは世界中の情報を集められるだけの能力を持っているのに、支配的勢力と接触できないんだろう」

「支配的勢力と接触するためには、なんらかの移行装置の役割を果たす、原因や現象、出来事があることは必要で、それはあちら側が提示しない限りは起こらないですから、我々は仮定し推察するしかなりません。それに、さすがに別次元となると我々の情報システムも意味がありません。

私は、エメザレがどのような経緯で新造生物に出会ったのか、それが発端ですから、それさえわかれば、我々を支配している勢力に近づけると思うのです。それは大きな出来事になるでしょう。おそらくエメザレは支配的勢力に選ばれました。エメザレの選出は物事の始まりに過ぎず、なにかが起こります。とてつもない巨大なことです」

「とてつもなく巨大なこと……」

 高峰の言葉は不吉な予言のようにも聞こえた。

“エメザレは支配的勢力に選ばれた”そしておそらく自分もだ。一体なぜ、誰によって選ばれたというのだろう。支配的勢力の望みはなんなのだろう。そしてこれからなにが起こると言うのだろう。

 辺りには淋しい風が吹いている。彼と同じように淋しい風だ。それに撫でられて優しくうねる草原の海は穏やかで、至大の転機が訪れる兆しなどどこにもないように思える。だが静穏な情景とは反対に、イウの心には憂慮ばかりが巣食っていく。

「支配的勢力を暴くには機会がいいのかもしれません。ただ私は支配的勢力を見つけてはならない気がします。矛盾しますが、私がここにいるのはそれの正体を知りたいからです。知識欲に私は抗えません。しかし、見つけてしまったらどうなるでしょう。法則の構造が全くわかってしまったら。そうできてしまったら、支配されなくなって、我々はどこに行くことになるでしょう。

なぜか私の空想の果てに現れるのは、まっさらな虚空です。わかっていて止めることができません。歩むことを。私がモートだからでしょうか」

 高峰の表情のない顔が悲しそうに見えた。そんなふうに見えるのは、彼がモートを見慣れてきたからだろうか。高峰の瞳からは知識欲という狂気が消え去っていた。



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