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二人がいなくなってから、イウは恐る恐る声を出した。
沈黙の心地よい父との関係のなかで、自ら口を開くのは本来遠慮すべきことであったが、それよりエメザレのおかれる立場と現実が知りたかった。

「あの、父上……」

「なんだね」

「ジヴェーダというと、拷問師のあのジヴェーダですか?」

「そうだ。ジヴェーダはひとを従わせる術を知り尽くしている。エメザレもまた、彼の思うがままとなるだろう。
第一エメザレは我等より劣等した黒い髪だ。尻を叩く役くらいつけねば、床一つ満足に磨けまい」

「……そうですか」

エメザレを完全に見下した態度に苛立ちを覚えたが、イウは心の口を閉じた。例えイウが意見したところで、状況は変らないだろうし、無意識にグセルガとの関係がこじれることを恐れた。
彼は一人では何もできないのだ。

「何か不満かね」

「いえ。ただ…その、父上はエメザレを……その…殺すつもりでいるのですか?」

イウがそうきくと、グセルガは突然大声で笑い出した。

「なぜ、そう思うのだね?」

怒りは含まれていなかったが、意地悪く試すようにきいた。

「いえ…。なんでもありません」

「エメザレを。殺すつもりはない。愛しい息子よ、わたしはそんなにも残酷にみえるのか。殺す理由もない。殺す必要もない」

「すみません。余計なことをでした…」

イウは慌ててうつむいた。これ以上、グセルガの顔を見たくも話したくもなかった。
ただ憎しみに似た何かが、イウの胸の中を激しく駆けまわっていた。

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