5/5 二人がいなくなってから、イウは恐る恐る声を出した。 沈黙の心地よい父との関係のなかで、自ら口を開くのは本来遠慮すべきことであったが、それよりエメザレのおかれる立場と現実が知りたかった。 「あの、父上……」 「なんだね」 「ジヴェーダというと、拷問師のあのジヴェーダですか?」 「そうだ。ジヴェーダはひとを従わせる術を知り尽くしている。エメザレもまた、彼の思うがままとなるだろう。 第一エメザレは我等より劣等した黒い髪だ。尻を叩く役くらいつけねば、床一つ満足に磨けまい」 「……そうですか」 エメザレを完全に見下した態度に苛立ちを覚えたが、イウは心の口を閉じた。例えイウが意見したところで、状況は変らないだろうし、無意識にグセルガとの関係がこじれることを恐れた。 彼は一人では何もできないのだ。 「何か不満かね」 「いえ。ただ…その、父上はエメザレを……その…殺すつもりでいるのですか?」 イウがそうきくと、グセルガは突然大声で笑い出した。 「なぜ、そう思うのだね?」 怒りは含まれていなかったが、意地悪く試すようにきいた。 「いえ…。なんでもありません」 「エメザレを。殺すつもりはない。愛しい息子よ、わたしはそんなにも残酷にみえるのか。殺す理由もない。殺す必要もない」 「すみません。余計なことをでした…」 イウは慌ててうつむいた。これ以上、グセルガの顔を見たくも話したくもなかった。 ただ憎しみに似た何かが、イウの胸の中を激しく駆けまわっていた。 [*前] | [次#] しおりを挟む モドルTOP |