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「私はクウェージアともスミジリアンとも関係ありません。私はイウさんに不利益を行いません。そして常識外の出来事を簡単に否定しませんし、イウさんの考えや行動を責めることもないです。どうか真実を語ってください」

 高峰の声は平坦で高揚しない。優しい印象に包まれているが、どこからとなく威圧を感じる。そう背が高いわけでもないのに、高峰が聳えているようにも見える。まるで大きな影が静かに忍び寄ってくるようだ。

「ぼくは……四年前にエメザレと会って、それで……」

 彼は恐かった。氷のように透き通った高峰の瞳の奥に、本能にも似た強大な知識欲が見えたからだ。モートという種族そのものに、その本能が根付いてしまっているのだと思った。知りたくて知りたくて、モート種族は常にあがいているのだ。どんなに隠そうとしても、押し殺しても、むしろ欲望は凝縮されて狂気のようにすら見えてしまう。

 なんと恐ろしい種族なのだろう。

「私に、エメザレが失踪したという情報がありました。しっかり確認したわけではないですが、事実に臨時政府は指示が出せていないのです。このことはご存知ですか」

 高峰は淡々としている。平然としていて、表情がわずかにも動くことはない。

 高峰はどこまで知っているのだろうか。クウェージアでエメザレの失踪はとっくに騒ぎになっているのだろうか。死体は発見されてしまったのだろうか。一体どのような見解がなされているのか。高峰はなぜそのことを知っているのか。

 イウは、高峰が答えることはできない、と言っていたその質問にぶつかって、返す言葉が見つけられずに沈黙した。


「エメザレは死んでいますか?」


 声が出なかった。
 なぜそのことを知っているのか。

 何度も何度もその疑問が頭を巡っていく。モート種族はあらゆることを知っている。知り尽くしてしまいたいと願っている。きっと敵わない。真実がわかるまで高峰は追求を続けるだろう。たぶんそれが存在意義なのだ。だが知りたいのは真実だけだ。罪を裁くことではない。糾弾でもない。高峰は義憤に駆られない。高峰は――高峰ならば、行くべきところへ導いてくれるかもしれない。

 彼は覚悟をした。

「ぼくは……新造生物ゴルトバと話した」

 と言った瞬間、今まで無表情だった高峰の顔つきがほんの少し変わった。表情が読み取れないほどの僅かな動きだったが、喜びだったのではないかと彼は思った。

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