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「せっかくですから、話をしませんか。時間が少しですが」

 そう言いつつも高峰は立ったままで、こちらへ近付いてくることはない。これでも遠慮しているのかもしれない。

「珍しいな。高峰の方から来るなんて」

 セウ=ハルフは身体ごと後ろを向き、高峰に笑いかけたが、それはもちろん無駄なことだった。

「ある噂を聞きました。そのことについて知りたいのです」
「エメザレのことかな」
「そうです」
「だと思った。だからこいつを連れて行くことを許可したんだろう」

 と言ってセウ=ハルフはイウを目で指した。

「おおむね、そうです」

 高峰はそう答えてから、イウを見た。
 モートの瞳は冷たい輝きを放ち、見つめられるだけで背筋が無意識に伸びるような緊張が走る。そんな高峰の瞳とにわかに目が合って、イウは密かに唾を飲み込んだ。

「イウさん、お聞きしたいことがいくつかあります。答えることができますか?」

 だが瞳から受ける印象とは違い、高峰の声は優しいのだ。おそらく高峰は優しい人物で、幻影ほど堅物ではない。言い方次第では、高峰ならアシディアのことを教えてくれるような気がした。
 セウ=ハルフとデミングは高峰に圧倒されているのか、この状況を観察しているのか、割り込んでくる様子はない。

「ぼくも聞きたいことがあるんだ。だから、エメザレのことを話すかわりに、ぼくの質問に答えてほしい」
「いいでしょう。私には答えられることもあります。しかし、答えられないこともあります。機密事項は答えることができません」
「ぼくもそうだ。答えられることと答えられないことがある」

 生ぬるいことになってしまったが、イウも全てを正直に答えるわけにはいかない。この条件で承諾するしかなかった。

「では質問を開始しましょう」

 高峰と見詰め合ったまま、質問合戦が始まった。静かな風に高峰の長い髪がなびくのがやけに劇的に感じた。


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