6/6 「せっかくですから、話をしませんか。時間が少しですが」 そう言いつつも高峰は立ったままで、こちらへ近付いてくることはない。これでも遠慮しているのかもしれない。 「珍しいな。高峰の方から来るなんて」 セウ=ハルフは身体ごと後ろを向き、高峰に笑いかけたが、それはもちろん無駄なことだった。 「ある噂を聞きました。そのことについて知りたいのです」 「エメザレのことかな」 「そうです」 「だと思った。だからこいつを連れて行くことを許可したんだろう」 と言ってセウ=ハルフはイウを目で指した。 「おおむね、そうです」 高峰はそう答えてから、イウを見た。 モートの瞳は冷たい輝きを放ち、見つめられるだけで背筋が無意識に伸びるような緊張が走る。そんな高峰の瞳とにわかに目が合って、イウは密かに唾を飲み込んだ。 「イウさん、お聞きしたいことがいくつかあります。答えることができますか?」 だが瞳から受ける印象とは違い、高峰の声は優しいのだ。おそらく高峰は優しい人物で、幻影ほど堅物ではない。言い方次第では、高峰ならアシディアのことを教えてくれるような気がした。 セウ=ハルフとデミングは高峰に圧倒されているのか、この状況を観察しているのか、割り込んでくる様子はない。 「ぼくも聞きたいことがあるんだ。だから、エメザレのことを話すかわりに、ぼくの質問に答えてほしい」 「いいでしょう。私には答えられることもあります。しかし、答えられないこともあります。機密事項は答えることができません」 「ぼくもそうだ。答えられることと答えられないことがある」 生ぬるいことになってしまったが、イウも全てを正直に答えるわけにはいかない。この条件で承諾するしかなかった。 「では質問を開始しましょう」 高峰と見詰め合ったまま、質問合戦が始まった。静かな風に高峰の長い髪がなびくのがやけに劇的に感じた。 [*前] | [次#] しおりを挟む モドルTOP |