5/6


***
「正午になりました。休憩にしましょう」

 しばらくして、高峰が振り向いて言った。確かに太陽の高さは正午頃ではあったが、正午になったと断言したのが不思議だった。エクアフの国では毎日六度鳴る鐘で時間を知っていた。鐘が鳴らなければ正確な時間を知ることはできないのだ。

「よし、じゃあ休憩。昼飯にしよう」

 先頭を進んでいたセウ=ハルフは休息の知らせで開放的になったのか、一目散にイウのところへ駆けてきた。

「デミングが昼飯を持ってるから、後ろに行こう」

 セウ=ハルフの表情のある顔がなんだか懐かしく感じる。

「ご飯食べてくる」

 と幻影に言うと、幻影は頷き彼が馬から降りるのを手伝ってくれた。
隔たりというわけではないが、エクアフとモートの距離そのものと言うべきか、昼食を取るにもみんなで仲良くとはいかないようだった。モートはモートで、エクアフはエクアフで固まり、しかも結構な距離をおいて食べた。

 イウもあまりモートと昼食を食べたくはなかった。なにせ相手は笑わないのだ。こちらが歓談している最中、ずっとあの石のような顔をされていてはたまったものではない。

 エクアフたちは適当な石に腰掛け、輪になってデミルマートが作ってくれた昼食を頂いた。中身はサンドウィッチで、豚の塩漬けとトマトが挟んであった。おいしいものが食べられるのは昼食までで、夕食からは自分たちで炊飯をしなければならなかったので、彼らは豚肉を大事に味わって食べていた。

「この草原、どこまで続くの?」

 果ての見えない草原の世界を見渡して、イウは言った。これでは本当に海と変わらない。目印になりそうな木すら生えていないのだ。この朽ちた街道がなければあっという間に方向感覚は狂ってしまうだろう。

「あと三日くらいだね。この廃王国街道に沿って行くと白い森に着くんだ。森の中でも街道は続いているんだけど、白い森という名前からも想像できるとおり霧が濃くて、辿るのも大変なんだよ。こんな目立つ赤いマントを着ていても見失うことがあるんだ」

と、デミングはマントをひらひらさせて言った。

「そ、森に入ってからが面倒なんだ。何度行っても慣れないねぇ。昔からオルギア周辺ってあんな感じだったのかな。あんな霧の濃いところにわざわざ都市を作るなんて、なに考えてたんだろうな」
「気候の変化で現在は濃霧に覆われています。ですが思います。建国当初はオルギアの周辺に濃霧は発生していなかったと」

 セウ=ハルフの声の上に硬い声が重なってきた。まったく気配はしなかったのだが、セウ=ハルフの後ろには高峰がぬっと立っていた。悪気がないのはわかるのだが、高峰の出現で和やかな雰囲気は一気に陰鬱へと下降し、草原に吹く風が冷たくなった気がした。


- 130 -


[*前] | [次#]
しおりを挟む

モドルTOP