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「いいのか?」

 セウ=ハルフがモート二人に聞くと「うん」と男の方が答えた。幻影も黙って頷いた。

「お前、構わないだろう? 別に恐ろしい連中ってわけでもないし。それに女のひとだし」

 気を使ってか少しなだめるようにセウ=ハルフはイウに聞いてきたが、イウにしてみればモート種族と一緒にいる方が何かと聞きだせそうだったので、幻影の申し出はむしろ好都合だった。

「うん。全然構わないよ。ぼくも馬の負担を減らすのには賛成だ」
「では、私の乗る」

 と言って幻影はイウの腕を掴むと優しく引き上げ、後ろに座らせた。
モートたちが乗ってきた馬は、クウェージアやスミジリアンにいる馬より基本的に一回り大柄で肉付きがよく、速そうではないが強そうではある。確かに彼一人くらい増えてもモートの馬なら全く問題なく走れそうだった。

「ちゃんと掴まる。腰を掴む。落ちるな」
「大丈夫。ちゃんと掴まってるよ。ありがとう」

 イウが幻影の腰を掴んで言うと幻影はまた頷いた。もしかしたらモートが頷いたり頭を下げたりするのには、“好意的”や“微笑む”のような意味合いが含まれているのかもしれない。無表情なので無愛想な印象を与えるが、表情以外の愛想は――というのもおかしな表現だが――いいように思えた。


 セウ=ハルフを先頭にして一行はゆっくりと進み始めた。セウ=ハルフの次に高峰が続き、その後ろが幻影とイウ、そしてエクアフ語の上手い男が並び、その後ろに二人、その後ろが一人で二頭の荷馬を引いている。一番後方がデミングであり、彼も荷馬を引いていた。

 カルテニは廃村同然の寂しさで、誰一人として外に出ている者はいなかった。そんなエクアフの態度に彼は僅かな憤りを感じだが、モートたちは一切文句も言わず、気にしているような素振りも見せず、堂々と、しかし荒ぶりのない優雅さで排他をすり抜けていった。

 カルテニと外の境界は曖昧だったが、カルテニを出ると彼が来た時と同じ草原の海が広がっていた。肌寒い風が吹き付ける草原は、優しそうな草色とは裏腹に残酷な空気を漂わせている。カルテニはスミジリアンの果ての村だと聞いたが、本当に道の果てといった感じでカルテニから北には道らしき道がない。だが、注意深く下を見るとかつて石で舗装されていただろう道の痕跡が残っていた。もうほとんど草に侵食され、その辺に転がっている石と道の石の見分けがつかないくらいだが、セウ=ハルフはこの道の残骸の上を進んでいる。ふと意識して見渡せば、道はかなり大きかったようで、おそらく馬車二台が並んで通れるくらいの幅があった。この道が使われていた頃はさぞかし立派な街道で、道行くひとたちはそれだけでオルギアの国力を知ることができたことだろう。

 そんな栄光の残骸の上を一行は黙々と進み続けた。モート種族は第一印象を覆すことなく非常に無口であり、歓談しそうな気配もない。セウ=ハルフとデミングが並んでいればいつもの軽い会話が聞けたのだろうが、その二人は先頭と最後尾にいる。当然普通の会話をするのは無理である。なんの会話もなく、延々と続く変化のない草原を進むのは勝手ながらかなり暇だった。ついでに幻影の、一本に結われた弱い鞭のような髪の先が頻繁にイウの顔に当たってくるのにも嫌気が差していた。イウが幻影の背中から少しでも離れようとすると、幻影は「ちゃんと掴まる」と言って許さなかった。

「なんか暇そうですね」


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