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「おはようございます。お坊ちゃん」

 二人の会話はこの後しばらく続いたが、そこへデミルマートがやってきた。二人は取り込み中らしいと悟ったらしくデミルマートはイウに言った。

「おはよう」
「これ、着替えの服です。上等の物でなくて、しかもうちの子のお下がりで申し訳ないですが、白い服は汚れると目立つと思って。よかったら着てください。靴はお坊ちゃんには少し大きいかもしれませんが、その靴が駄目になってしまったら履いてください。あとこれは昼食です」

 とデミルマートは麻布に包まれた小包を差し出してきた。ありがたく受け取りながら、ところでデミルマートの年齢は一体いくつなのだろうか。と彼は思った。あまり女性の年齢を気にして生きてこなかったこともあり、今の今までしっかり考えもしなかったが、改めて優しいデミルマートの顔を眺めた。

 驚くような美人ではないが、特に欠点のない顔立ちで美しかったし、しわもない。声も落ち着いているが若々しい。勝手に二十代後半か、いっても三十くらいだと思っていたが、デミルマートの息子は彼よりも年上であるらしい。そう考えると、なかなか恐ろしいことになった。

「助かります。ありがとう。親切にしてくれて、とても感謝しています」

 イウの母親は物心のつく前に死んでしまったが、生きていたらデミルマートのように美しく優しかっただろうか、とふと思って、なんだか急に泣きたいような気分になってきた。

「無事に帰ってきてくださいね。みなさんで必ず無事に帰ってきてください」
「無事に……」

 イウは弱々しく呟いた。
 ここへは、おそらくもう帰ってこない。オルギアへ着いたその後でなにが待ち受けているのかわからない。アシディアへ会えるかどうかも知れないが、確信めいたものがあった。どちらにせよ、ここへは帰ってこられない。一ヶ月も経てばエメザレが殺害されたことと、亡国の王子からの手紙の噂は、カルテニにまで及んでいるだろう。彼女には二度と会うことはないのだ。

 イウの表情は沈みかけたが、デミルマートが不思議そうな顔をしたので、はっとして彼は笑いかけた。

「いや、ちゃんと帰ってくるよ。三人で」

 と彼が言い終わってすぐに朝を告げる鐘が鳴った。

「よし、行くぞ。というか多分、もうそこに着いていると思うが」


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