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 彼らの足音は静かだった。戦慄の静寂を荒立てない優雅な足並みだ。八頭の光る毛並みの黒い馬が二列縦隊で闊歩してくるのが見えた。うち二頭には貨物が乗せられている。東の果てからやってきたにしては、少なすぎる荷物である。馬に乗るひとびとの肌は深淵の底をくり貫いたようにただ黒く、彩度のないモノクロオム的な、純粋な漆黒だった。髪は四人が金髪で、二人は髪が白、あるいは灰色だった。服も全身が真っ黒で統一され、ここからではまだ詳細は見えないが、服の形はなんだか奇妙である。

 黒い塊が静かに進入してくる様は、常闇がカルテニを侵蝕していくようだった。悪い意味ではない。夜の神エルドを信仰するエクアフ種族にとって夜の闇は神聖なのだ。いくら排他的であろうとも、この光景に荘厳さを感じずにはいられまい。しかしこの神秘を目撃しているのは、彼一人であるのが残念でならない。

「おーい、もう用意できただろう。降りてこーい」

 セウ=ハルフの大声が響いてきた。用意もなにも、彼はクウェージアからほとんどこの身一つで来たのだ。忘れるものもない。ただ一つ大切なものはこの指輪だ。彼は上着の内ポケットの底の底に大切にしまってある指輪に、上着の上から手を置いた。
 ぼくは大丈夫だ。
 丁度、心臓の位置に重なる指輪は彼からおののきを取り去った。

「今、降りるよ」

 と答えて下に降りると、セウ=ハルフとデミングは大きな荷物を玄関に運んでいるところだった。
 オルギアへ行くには順調にいっても一週間はかかるらしい。霧が深く、天候が不安定だから最悪だと二週間くらいかかるとデミングに教わった。モートはモートで必要なものは持ってくるそうなのだが、三人でも往復で一ヶ月ともなれば、それなりの装備を持っていかなくてはならない。


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